派遣会社必見!精神障害・過労死補償の傾向と労務管理のポイント
2025.09.07
## 1. はじめに:派遣会社にとって無視できない「過労死・精神障害」問題
令和6年度の厚生労働省発表による「過労死等の労災補償状況」によれば、請求件数や支給決定件数が軒並み増加しており、働く人々の労務リスクは深刻さを増しています。
とりわけ精神障害に関する補償状況は顕著で、職場におけるパワハラや顧客対応ストレスといった要因が、過労死や自殺にまでつながっている実態が浮き彫りとなりました。
派遣スタッフは派遣元と派遣先の二重構造の中で働くため、相談窓口が不明確になったり、実態把握が遅れたりするリスクが高いのが現状です。
この統計結果を「他人事」として眺めるのではなく、派遣会社自身の実務に活かすことが、トラブル防止と信頼構築に直結します。
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## 2. 令和6年度の過労死等労災補償の全体像
まず全体的な数字を確認してみましょう。
- **請求件数**:4,810件(前年より212件増加)
- **決定件数**:4,312件(前年より1,033件増加)
- **支給決定件数**:1,304件(前年より196件増加)
- **うち死亡・自殺(未遂含む)**:159件(前年より21件増加)
ここ数年はコロナ禍の影響で一時的に労災件数が減少傾向にありましたが、社会が通常運転に戻るにつれて、労働負荷が再び高まり、結果として労災補償件数も上昇していると考えられます。
派遣スタッフにとっても「長時間労働」「精神的ストレス」の両方が依然として大きなリスクであることが、このデータから読み取れます。
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## 3. 精神障害事案の増加とその背景
精神障害に関する請求件数は3,780件(前年比205件増)、支給決定件数は1,055件(前年比172件増)となっており、全体の約8割を占める規模で推移しています。
注目すべきは以下の点です:
- 自殺(未遂含む)は202件(前年より10件減)
- 支給決定された自殺事案は88件(前年より9件増)
- 認定理由のトップは「パワハラ」224件
精神障害労災は、単に長時間労働だけが原因ではありません。
職場の人間関係、顧客からの理不尽な要求、仕事内容や人事配置の急な変化など、複数の心理的要因が重なって発症しています。
派遣スタッフは「派遣先に馴染みにくい」「孤立しやすい」傾向があるため、精神的ストレスに弱い立場になりやすいのです。
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## 4. 脳・心臓疾患に見る「長時間労働」のリスク
一方、脳・心臓疾患に関する請求件数は1,030件(前年比7件増)、支給決定件数は241件(前年比25件増)でした。
特に注目されるのは「長時間労働」との関連です。
- 評価期間1か月で「100時間以上120時間未満」の残業が最も多い(18件)
- 評価期間2~6か月で「80時間以上100時間未満」が最多(63件)
これはまさに「過労死ライン」とされる水準であり、労働時間管理が不十分な現場では、今も命に直結するリスクが放置されていることを意味します。
派遣会社にとって、派遣先に「長時間労働が常態化していないか」をチェックすることは不可欠です。
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## 5. 業種別データから見える「派遣先リスク」
業種別にみると、労災補償のリスクは明らかに偏っています。
精神障害では:
- 医療・福祉:983件(支給決定270件)
- 製造業:583件(同161件)
- 卸売・小売:545件(同120件)
脳・心臓疾患では:
- 運輸・郵便:213件(支給決定88件)
- 宿泊・飲食:28件
- 製造業:24件
つまり、医療福祉や運輸業界のように「人手不足が深刻」「労働強度が高い」業種は、派遣スタッフを配置する際に特に注意が必要です。
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## 6. 年齢層ごとの労災傾向
年齢別の傾向も見逃せません。
精神障害の請求件数は:
- 40代:1,041件
- 30代:889件
- 50代:870件
脳・心臓疾患の請求件数は:
- 50代:411件
- 60歳以上:348件
- 40代:213件
つまり、**精神障害は40代前後、脳・心臓疾患は50代以降**に多発していることがわかります。
派遣スタッフは幅広い年代に及びますが、年齢に応じて「ストレス要因」や「体力的リスク」が異なるため、配慮の仕方も変える必要があります。
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## 7. 精神障害発症の主要因「パワハラ」との関係
精神障害の支給決定理由で最多となったのは「上司等からの身体的・精神的攻撃(パワハラ)」で224件。
次いで「仕事内容・仕事量の大きな変化」119件、「顧客からの迷惑行為」108件が続きます。
派遣スタッフの場合、派遣先でのハラスメントを派遣元に相談するのはハードルが高く、問題が潜在化しやすい特徴があります。
したがって、派遣元が積極的に「声を拾いに行く」仕組みをつくることが不可欠です。
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## 8. 派遣元としての労務管理責任
労働契約を結んでいるのは派遣元です。したがって、労務管理の責任も派遣元にあります。
実務上の対応ポイントは以下の通りです。
- 労働条件の明示を正確に行う(残業見込みや職場環境も含む)
- 派遣スタッフの労働時間を可能な限り把握する
- メンタルヘルス相談窓口を社内外に設ける
- 定期的な面談やヒアリングを行い「声なき声」を拾う
形式的な規程だけでなく、実際に機能する体制を整えることが、労災リスクを未然に防ぐカギとなります。
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## 9. 派遣先との連携によるリスク回避策
派遣元が一方的に努力しても限界があります。
派遣先に対しても「労務管理の責任を共有する」という意識を徹底する必要があります。
具体的には:
- 契約前に労務リスク(残業・職場環境)を確認
- 就業開始後も定期的にフォローアップ
- 問題発生時の報告・相談フローを文書化
- ハラスメント対応のガイドラインを派遣先と共有
これらを実行することで、トラブル発生時に「派遣元の責任」と一方的に問われるリスクを減らせます。
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## 10. まとめ:データを踏まえた労務リスク対策が信頼につながる
令和6年度の過労死等労災補償状況からは、以下の重要な示唆が得られます。
- 精神障害事案は増加傾向、特にパワハラや業務量変化が原因
- 長時間労働による脳・心臓疾患は依然として命に直結するリスク
- 医療・福祉、運輸業など特定業種は労災リスクが高い
- 年齢層ごとに発症リスクが異なり、対応も変える必要がある
派遣会社にとって、このデータは単なる統計ではありません。
日々の派遣スタッフの安全と健康を守る「実務指針」として活用すべきものです。
派遣スタッフの労働環境を適切に管理することは、労災防止だけでなく、派遣先企業からの信頼を高め、安定した取引につながります。
「数字の裏にある現場の声」に耳を傾けながら、派遣会社としてできることを一つひとつ積み重ねていくことが、これからの人材ビジネスに求められている姿勢だと言えるでしょう。
いつでもご相談を承りますので、ご連絡ください。初回1時間は無料です。
※参照記事)厚生労働省「令和6年度「過労死等の労災補償状況」の公表
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「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
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講演実績
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一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
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- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
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当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)