11月は「過労死防止啓発月間」──派遣業界が労務リスクを減らすための実践チェックリスト
2025.10.17
### はじめに:11月は「過労死防止啓発月間」
毎年11月は、厚生労働省が定める「過労死等防止啓発月間」です。
これは、過労死や過労自殺をなくすために、国全体で労働環境を見直そうという取り組み。
期間中は全国47都道府県で「過労死等防止対策推進シンポジウム」が開催されるほか、
「過重労働解消キャンペーン」として、企業への重点的な監督指導や相談窓口の設置が行われます。
ここ数年で働き方改革が進んだとはいえ、
「サービス残業」「長時間労働」「休みが取れない」といった問題は依然として現場に根強く残っています。
特に派遣業界では、
「派遣先の管理下にあるスタッフの労働時間をどう把握するか?」
という点が非常に難しく、労務リスクを抱えやすい業界構造にあります。
今回は、社会保険労務士の視点から、
この啓発月間にあわせて派遣会社が見直すべき「労務リスクと実践チェックリスト」をまとめました。
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### 1. 派遣元としての「労務管理責任」を再確認する
まず大前提として、派遣スタッフの労働時間・健康管理については、
派遣先だけでなく「派遣元」も責任を負っています。
労働者派遣法では、派遣元はスタッフの「雇用主」として、
安全衛生や労働条件の確保に関する義務を明確に負っています。
つまり、
「派遣先に任せているから大丈夫」という考え方は、
法的には通用しないのです。
特に、派遣先が長時間労働を強いていたり、
残業申請が適切に行われていなかった場合、
派遣元にも監督責任が問われる可能性があります。
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### 2. 厚労省が重点的にチェックするポイント
厚生労働省の「過重労働解消キャンペーン」では、
以下の3つの観点で重点的に監督指導が行われます。
- 36協定を超える長時間労働
- 賃金不払残業(サービス残業)
- 健康障害リスク(過労死ライン超の勤務)
これらはどれも、派遣会社にとって“他人事ではない”テーマです。
特に、派遣スタッフが複数の現場に関わるケースや、
派遣先が独自に勤怠を管理している場合、
派遣元が把握できていない「隠れ残業」が発生していることも少なくありません。
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### 3. 労務リスクが顕在化する「3つの瞬間」
私がこれまで顧問先で見てきた中で、派遣会社が労務トラブルに発展しやすい瞬間は、主に次の3つです。
1. **勤務時間の申告が派遣先任せになっているとき**
→ 派遣スタッフの勤務実績が正確に報告されず、後で残業代請求になることも。
2. **体調不良やメンタル不調に早期対応できなかったとき**
→ 退職や労災申請につながり、企業イメージにも影響。
3. **36協定の内容が現場実態と乖離しているとき**
→ 実際の残業が協定を超えており、監督指導で是正勧告を受けるケースも。
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### 4. 労務管理の“見直し”が必要なサイン
次のような兆候が見られたら、
社内の労務管理体制を早急に見直すタイミングです。
- 勤怠データの提出が毎月ギリギリになっている
- 派遣先との報告ルールが人によって違う
- 有給休暇の取得状況を把握できていない
- 月末に「残業時間の修正」が頻発している
- 「派遣スタッフの離職理由」が曖昧
こうした“管理のほころび”は、日常業務では見逃されがちですが、
放置すると、会社全体のコンプライアンスリスクに発展しかねません。
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### 5. 実践チェックリスト:派遣会社が今すぐ取り組むべき5項目
この11月、ぜひ次の項目を社内で点検してみてください。
✅ **① 労働時間の把握方法は派遣元でも確認できるか?**
→ 勤怠システムを活用し、派遣先任せになっていないかを確認。
✅ **② 36協定の内容は現場の実態に即しているか?**
→ 年度更新時に形式だけの協定になっていないか見直しを。
✅ **③ 残業の申請・承認ルールは明確か?**
→ 「上司の口頭指示だけ」で残業していないか要確認。
✅ **④ 健康フォロー(面談・アンケートなど)を実施しているか?**
→ 長時間勤務者への面談記録が残っているかチェック。
✅ **⑤ 派遣スタッフからの相談ルートは確保されているか?**
→ 労働相談窓口を明確にし、気軽に声を上げられる雰囲気を作る。
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### 6. 実際に取り組む企業の好事例
ある中堅派遣会社では、
勤怠管理を「派遣先+派遣元の両方で確認」できるクラウドシステムを導入しました。
スタッフがスマホで打刻し、派遣先の承認を得た上で、
派遣元がリアルタイムに勤務状況をチェック。
結果として、
・残業時間の月次修正がゼロに
・過重労働者の早期発見が可能に
・スタッフ満足度が向上し、離職率が約20%改善
という成果が生まれました。
“仕組みで防ぐ”ことが、いちばん確実なリスク対策です。
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### 7. 「法令遵守」だけでなく「信頼獲得」のために
労務管理は「罰則を避けるため」ではなく、
「人と企業が長く信頼関係を築くため」のものです。
派遣スタッフにとって、
“安心して働ける環境”は何よりのモチベーションになります。
一方、派遣先企業にとっても、
「きちんと管理できる派遣元」と仕事をしたいのは当然のこと。
つまり、労務管理の質を高めることは、
派遣先との取引拡大にもつながる“攻めの施策”なのです。
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### 8. 社労士が見てきた「現場のリアル」
私が顧問として関わってきた中で、
多くの派遣会社が抱える課題は「制度設計」よりも「運用の徹底」にあります。
例えば、36協定は作っていても、
現場の管理者がその内容を理解していないケースが多い。
あるいは、
勤怠入力の締めが派遣先によって異なり、
最終的に派遣元がデータを集約できない──そんな問題もあります。
重要なのは、“仕組み”よりも“人が動く運用”。
たとえば以下のような工夫が有効です。
- 週1回、勤怠報告を簡易的に共有する
- 月1回、管理担当者間で情報交換ミーティングを行う
- 長時間勤務者をシステムで自動通知する
小さな取り組みでも、継続すれば確実にリスクが減ります。
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### 9. 今こそ「働き方を見直す」タイミング
過労死防止啓発月間は、単なるキャンペーンではありません。
「会社として働かせ方を見直す」ための絶好の機会です。
この1カ月間だけでも、
・自社の36協定を読み直す
・派遣先との情報共有体制を確認する
・スタッフの声を聞くミーティングを行う
といった小さなアクションを実行してみてください。
その積み重ねが、企業文化の改善につながります。
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### 10. まとめ──“守りの労務管理”から“信頼の労務管理”へ
派遣業界は、人を扱うビジネスでありながら、
最も「人の働き方」にリスクが集中する業界でもあります。
だからこそ、法令遵守をベースに、
人を大切にする仕組みを整えることが、
最終的に企業価値を高めることにつながります。
この11月、社内で「労務管理チェック会議」を開いてみてください。
ほんの1時間でも、課題と改善点が見えてくるはずです。
社会保険労務士として、
私は派遣業界の現場を知る立場から、
“机上の理論ではなく、現場で回る仕組み”づくりを支援しています。
過労死防止啓発月間をきっかけに、
「守る労務」から「育てる労務」へとシフトしていきましょう。
もし、働き方や労務管理で不安があれば、
ぜひ一度ご相談ください。
当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
【参照記事】
https://apj.aidem.co.jp/current/detail/5754.html
【参照リンク】
厚生労働省「過重労働解消キャンペーン」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/roudoukijun/campaign_00004.html
#過労死防止 #労務管理 #派遣会社 #働き方改革 #社労士コラム #労働時間管理 #36協定 #健康経営
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当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。
セミナー開催実績例
- 介護事業者様向け「改正介護保険法セミナー」
- 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
- 新規採用をお考えの事業者様向け
「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
講演について
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講演実績
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市川港開発協議会様 主催 研修
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今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」
【参加者様からのお声】
- 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
- 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
- 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
- マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。
一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
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研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)