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厚労省が発表!ストレスチェック義務化の対象拡大で派遣会社が注意すべき3つの点   2025.10.06

## はじめに:ストレスチェック義務化がすべての企業へ

 

厚生労働省は、従業員のメンタルヘルス状態を調べる「ストレスチェック制度」を、 

**全ての企業に義務化する方針**を正式に打ち出しました。

 

これまでストレスチェックの実施が義務付けられていたのは「従業員50人以上」の企業のみ。 

一方、50人未満の事業所、いわゆる零細企業や個人事業主を中心とした小規模事業所については、 

努力義務にとどまっていました。

 

しかし、今回の制度改正によって状況は一変します。 

厚労省によれば、新たに義務化の対象となる事業所は**約364万カ所**、 

対象労働者は**およそ2,893万人**にものぼります。 

日本の企業の大半を占める中小・零細事業所が、新たに対応を迫られることになります。

 

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## 背景:なぜ今、義務化なのか?

 

ストレスチェック義務化の背景には、 

「職場におけるメンタル不調の急増」という深刻な課題があります。

 

厚労省によると、**精神障害による労災認定件数はこの10年間で約2倍に増加**。 

2023年度には883件にのぼり、過労やハラスメント、長時間労働による心理的負担が 

依然として多くの職場に存在していることが分かります。

 

また、2022年11月から2023年10月の間に「メンタル不調で退職や1か月以上の休業者が出た」 

と答えた事業所は**13.5%**に達し、年々増加傾向です。 

特に小規模事業所ほど、職場内の人間関係や仕事の偏りによるストレスが蓄積しやすく、 

それに対するケア体制が整っていないのが現状です。

 

この状況を受けて厚労省は、ストレスチェック制度を「努力義務」から「義務化」へと 

一段階引き上げる方針を決定。 

今後、**労働安全衛生法の改正案**として国会提出が検討されています。

 

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## 派遣業界にとっての意味:複雑な構造が浮き彫りに

 

この制度改正、派遣業界にとっては特に重要な意味を持ちます。 

なぜなら、派遣労働者は「派遣元」と「派遣先」という**二重の職場環境**の中で働いているからです。

 

通常、ストレスチェックの実施主体は「雇用主」である派遣元事業主。 

しかし、実際に日々の業務を行うのは派遣先企業であり、 

ストレスの多くは派遣先の環境や人間関係、労働条件から生じます。

 

このため、制度の運用にあたっては次のような課題が想定されます。

 

- 派遣元がどのように派遣先の職場環境に関する情報を把握するか 

- チェック結果をどの範囲で共有できるのか(個人情報・プライバシーの扱い) 

- ストレスチェック結果を踏まえた「職場改善」をどちらの責任で行うのか 

 

これらの点を明確にしないまま制度が動き出すと、 

派遣元・派遣先間でトラブルや責任の押し付け合いが生じる可能性もあります。 

 

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## 注意すべき3つのポイント

 

では、派遣会社が今回の義務化を前に、具体的に注意すべきポイントは何でしょうか。 

ここでは、社労士としての実務経験から「3つの観点」で整理します。

 

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### ① 実施体制の整備【キーワード:ストレスチェック 体制構築】

 

まず最初のポイントは、「誰が」「どのように」実施するのかという体制づくりです。

 

ストレスチェックは、医師・保健師・看護師・公認心理師など、 

専門職による実施が求められます。 

しかし零細規模の派遣会社では、社内に専門職を配置するのは難しいため、 

多くの場合は外部委託となります。

 

委託先を選ぶ際は以下を確認しましょう。

 

- 派遣労働者の就業形態に理解があるか(多様な職場に派遣されている点) 

- オンライン対応が可能か(拠点が分散している場合) 

- 結果の管理・保管が適切に行われるか(個人情報保護法への対応) 

 

さらに、実施後の「高ストレス者への医師面接指導」や「結果のフィードバック」まで含めた 

運用フローを社内で整備することが重要です。

 

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### ② 派遣先との協力体制【キーワード:派遣先 情報共有】

 

次に大切なのは、派遣先との連携です。

 

ストレスチェックは個人のプライバシーに関わる情報であるため、 

結果をそのまま派遣先に共有することはできません。 

しかし、派遣先の職場環境に起因するストレスが多い場合、 

派遣元だけでの改善は難しいのが現実です。

 

したがって、派遣契約書や労働者派遣契約に以下のような条項を追加・明確化しておくことが望まれます。

 

- 健康管理・安全衛生に関する協定書の締結 

- ストレスチェック実施に関する情報共有ルール 

- メンタル不調者発生時の対応フロー 

 

こうしたルールが明文化されていないと、 

「派遣先の環境が原因で体調を崩した場合、どちらが責任を負うのか?」という問題が 

曖昧になりがちです。

 

今後の法改正を見据え、契約段階で「健康管理に関する取り決め」を盛り込むことが、 

派遣元にとってのリスクヘッジになります。

 

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### ③ 結果を活かす“職場改善”への取り組み【キーワード:職場環境 改善】

 

ストレスチェックは「やったら終わり」ではありません。 

むしろ本質は、「チェック結果をどのように活かすか」にあります。

 

チェックの結果、特定の職場や部署で高ストレス者が多い場合、 

その背景には「業務量の偏り」や「コミュニケーション不足」など、 

構造的な問題が隠れていることが多いです。

 

派遣会社としては、以下のような取り組みを行うことが効果的です。

 

- 派遣スタッフ向けアンケートによる定期的な職場満足度調査 

- 派遣先担当者へのフィードバックと職場環境改善の提案 

- メンタルヘルス研修・カウンセリング窓口の設置 

 

これにより、派遣スタッフが安心して働ける職場環境を維持でき、 

結果的に定着率や派遣先からの信頼にもつながります。

 

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## 厚労省の支援と今後のスケジュール【キーワード:労働安全衛生法 改正】

 

厚労省は、零細事業所の対応を支援するため、 

ストレスチェックの運用マニュアルや事例集を作成する方針を示しています。 

特に「プライバシー保護の方法」や「結果の管理体制」については、 

今後明確なガイドラインが提示される見通しです。

 

労働政策審議会の安全衛生分科会で議論が進められ、 

**2025年度中にも労働安全衛生法改正案が国会提出される可能性**があります。 

つまり、実施は早ければ**2026年度以降**になる見込みですが、 

準備には時間がかかるため、今のうちから体制づくりを始めておくことが得策です。

 

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## 義務化をチャンスに変える「健康経営」の視点【キーワード:健康経営 派遣スタッフ】

 

ストレスチェックの義務化を「負担」と感じる企業も多いでしょう。 

しかし、視点を変えればこれは**企業の魅力を高めるチャンス**でもあります。

 

職場の心理的安全性を高めることは、 

派遣スタッフの定着率向上・ミスマッチの減少・生産性の向上に直結します。 

いわば「人を大切にする企業文化」の形成です。

 

また、ストレスチェックの結果を定期的に分析し、 

「派遣スタッフが働きやすい職場ランキング」などの指標を作ることで、 

採用力の向上にもつながります。

 

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## 社会保険労務士がサポートできること【キーワード:社労士 ストレスチェック 支援】

 

社会保険労務士としては、以下のような支援が可能です。

 

- ストレスチェック制度の設計・運用支援 

- 派遣元・派遣先の役割分担に関する協定書の作成 

- 結果を活用した職場改善施策の提案 

- 高ストレス者対応や復職支援に関する助言 

 

特に中小・零細の派遣会社では、限られた人員で制度運用を行うため、 

「外部の専門家との連携」が実効性を高めるカギになります。

 

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## まとめ:ストレスチェックを「義務」ではなく「投資」に

 

今回の義務化拡大は、 

単なる法令遵守の話ではなく、企業の持続可能性に関わるテーマです。

 

人が定着し、安心して働ける環境を整えることは、 

これからの時代の“企業競争力”そのもの。

 

派遣会社としては、 

「法対応をいち早く整える企業」ではなく、 

「制度を上手に活かして人を守る企業」になることが求められています。

 

ストレスチェックを「やらされる義務」ではなく、 

「人と組織を成長させる投資」として捉える。 

その一歩を、今から踏み出すことが大切です。

 

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📘 **まとめポイント**

 

- 厚労省がストレスチェックの義務化対象を全企業に拡大 

- 派遣会社は「体制整備」「派遣先との協定」「職場改善」が3大テーマ 

- 義務化は2026年頃の見込み。今から準備を進めることが重要 

- ストレスチェックは“健康経営”への第一歩 

- 社労士による制度設計・運用支援を活用し、安心して対応を 

 

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社会保険労務士として、派遣会社の皆さまが安心して制度対応を進められるよう、 

実務に即したサポートを行っています。 

 

お困りの際は、当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。

初回のご相談は無料です。

 

 

※参照記事)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1132D0R11C24A0000000/

 

※参照リンク)厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html

 

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セミナーについて

当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。

セミナー開催実績例
  • 介護事業者様向け「改正介護保険法セミナー」
  • 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
  • 新規採用をお考えの事業者様向け
    「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
  • 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」

講演について

当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。

講演実績

日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修

「マイナンバー通知開始!
今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」

【参加者様からのお声】

  • 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
  • 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
  • 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
  • マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。

一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」

【参加者様からのお声】

  • メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
  • 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
  • メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
  • 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
  • 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
  • 株式会社LEC 様 主催
    「介護雇用管理研修」業務委託登録講師
  • 株式会社フィールドプランニング 様 主催
    「派遣元・派遣先責任者講習」業務委託主任講師
  • 神奈川韓国商工会議所様 主催
    経営者セミナー「お役立ち助成金講座
    (雇用の確保と5年ルールへの対応策)」
  • 日本経営開発協会様 御紹介
    株式会社根布工業様 主催
    安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ

講演会の講師紹介・講師派遣なら講演依頼.com

研修について

当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。

研修のご依頼例

  • 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
  • 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
  • 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい

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雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。

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ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。

「働き方改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」

「近代中小企業」2月号

「近代中小企業」2月号

「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。

「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」

「SR」 9月号

SR 9月号

ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。

ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。

(第27号 2012年8月6日発売)

元職員が指南する!ハローワークの効果的な利用の仕方

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