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NEW 未払い賃金で逮捕も!?派遣会社が今すぐ確認すべき労務管理   2025.09.05

## 1. はじめに:派遣会社社長逮捕の衝撃ニュースから

 

2024年9月、愛知県豊田市の派遣会社社長が労働基準法違反の疑いで逮捕されました。 

その容疑は「派遣労働者への未払い賃金」。未払いは外国人労働者を中心に159人分、総額7,800万円超にものぼると報道されています。会社はすでに廃業していたものの、事件は刑事事件として立件されました。

 

※参照記事)

https://news.yahoo.co.jp/articles/b6ba3427fee9727323da73a54fdcc8cb42b2cf5b

 

派遣会社を経営する立場にある方にとって、このニュースは決して「他人事」ではありません。 

「未払い賃金」という一見単純な問題が、**会社の存続**はもちろん、**経営者個人の責任追及や逮捕**につながることを示した事例だからです。

 

この記事では、派遣会社が抱えやすい労務リスクを整理し、具体的にどのような対策を取るべきかを社会保険労務士の視点から解説します。

 

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## 2. なぜ未払い賃金が発生したのか

 

派遣会社で未払い賃金が発生する背景には、いくつかの典型的な原因があります。

 

- **労働時間の管理不足** 

タイムカードやシステムを導入せず、実働時間を正確に把握できていないケース。残業代が支払われないまま放置されることも。

 

- **労働契約書の不備** 

契約条件を曖昧にしているため、後になって「残業代を支払うべきか」「休日出勤はどう扱うか」で揉めやすくなる。

 

- **派遣料金と給与支払いのズレ** 

派遣先からの入金は月末締め翌月末払い、給与は月末締め翌月10日払いなど、タイミングが合わないケースが多い。資金繰りが厳しいと「給与が後回し」になりやすい。

 

- **派遣労使協定の未締結** 

派遣労働者の賃金水準を決める「労使協定方式」を整備していない場合、労基署からの是正勧告や指導を受けることがある。

 

これらはどれも、派遣業の現場で頻繁に起きる“あるある”です。 

しかし放置してしまうと、未払いが積み重なり、今回のように刑事事件へと発展してしまうのです。

 

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## 3. 未払い賃金の消滅時効とは

 

「昔の未払いはもう時効だから関係ないだろう」 

そう考える経営者の方も少なくありません。ですが、労基法上の時効は意外と長いのです。

 

- 2020年4月以降の賃金 → **3年間** 

- 2020年3月以前の賃金 → **2年間** 

- 退職金 → **5年間**

 

民法改正により「時効は原則5年」となりましたが、労働基準法が優先されるため、当面は3年が適用されます。 

つまり、3年前までさかのぼって請求されるリスクがあるということです。

 

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## 4. 民法改正と労基法の違いに注意

 

実務の現場では「時効は5年」と誤解しているケースも多いです。 

しかし、労働関係については労基法の特例が適用されるため、**給与の時効は3年**が正解です。 

 

この誤解が解消されないまま放置されると、経営者が「もう時効だろう」と思っていた未払いが、実際には請求可能な状態で残ってしまい、予期せぬトラブルにつながります。

 

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## 5. 外国人派遣労働者に多いトラブル

 

今回の事件で特に注目すべきは、被害者の多くがベトナム人労働者だったことです。 

外国人労働者を雇用する際には、以下のような要因でトラブルが増える傾向があります。

 

- 言語の壁により、労働契約内容を正確に理解していない 

- 日本の労働基準法や権利について知識がない 

- 契約書が外国語で整備されていないため、労使間で認識の齟齬が起きやすい 

 

このため、外国人労働者を多く雇用している派遣会社ほど、**労働条件通知書や契約書の多言語化**が必要不可欠になります。

 

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## 6. 労働時間管理の重要性

 

労務トラブルの大半は「労働時間の記録」から始まります。 

正確に記録していなければ、残業代の計算はできませんし、未払いの証拠として従業員側に有利に働きます。

 

対応策としては、以下の方法があります。 

- タイムカードやICカードによる打刻 

- 勤怠管理システムの導入 

- 派遣先からの出勤簿との照合 

 

**“誰が見ても正しい”勤務時間記録**を残すことが、未払いトラブルを防ぐ最初の一歩です。

 

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## 7. 契約書の整備がトラブル防止のカギ

 

派遣契約においては「就業条件明示書」と「雇用契約書」が必須です。 

これらが不十分だと、労働者からの請求に反論できない状態に陥ります。

 

特に注意が必要なのは次の項目です。 

- 基本給と各種手当の内訳 

- 時間外・休日・深夜割増の計算方法 

- 支払日と締切日 

- 契約期間と更新ルール 

 

これらを明記しておくことで、トラブル発生時に会社を守る盾になります。

 

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## 8. 派遣労使協定の締結義務

 

派遣会社は「同一労働同一賃金」に対応するため、労使協定を結ぶ必要があります。 

もし未締結のまま放置していると、監督署から是正指導を受ける可能性が高くなります。

 

協定では以下を定める必要があります。 

- 賃金の水準 

- 評価や昇給のルール 

- 労使双方の同意 

 

形式的に作成するのではなく、**実際の派遣実態に即した内容**にすることが重要です。

 

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## 9. 派遣会社が取るべき実務的な対策

 

ここまでを踏まえ、派遣会社が今すぐに取り組むべき対策を整理します。

 

1. **勤務実績に基づいた残業代の計算** 

   勤怠システムを導入し、正確な時間管理を徹底。 

 

2. **契約書の再整備** 

   全従業員と改めて労働契約書を取り交わし、内容を明文化。 

 

3. **給与支払いルールの遵守** 

   「毎月1回以上、一定の期日」に必ず支払うことを再確認。 

 

4. **派遣労使協定の整備** 

   労働者代表と協定を締結し、法的リスクを最小化。 

 

5. **外国人労働者への対応強化** 

   契約書の多言語化、生活相談窓口の設置などで安心できる環境を整える。 

 

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## 10. まとめ:経営を守るために今すぐできること

 

未払い賃金は「資金繰りの一時的な苦しさ」で軽視しがちですが、最終的には**会社の信用と経営者の自由**を奪う大きなリスクとなります。 

 

一方で、労務管理の仕組みを整えれば、 

- 労働者の安心感が増す 

- 派遣先からの信頼が厚くなる 

- 長期的に安定した経営が可能になる 

 

というプラス効果も得られます。 

 

今回の事件は、派遣業に携わるすべての経営者に対する警鐘です。 

「自社の労務管理は大丈夫か?」と今一度見直し、早めに専門家に相談しておくことをおすすめします。 

 

派遣ビジネスは「人」が資本。 

働く人の安心があってこそ、会社も長く続けられるのです。 

 

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✍️ 社会保険労務士として、未払い賃金や労務管理の相談を日々受けています。 

「うちの会社も大丈夫かな?」と少しでも不安を感じたら、ぜひご相談ください。 

初回相談(1時間)は無料ですので、安心してお問い合わせいただけます。

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講演内容、業種、出席者数に関わらず、すべて定額の時間単価とさせて頂きます。業界きっての画期的な明朗会計です。 

「予め料金が分かっているので、安心して申し込めます」

 「料金交渉が不要で助かります」

 「時間単価は一定なので、研修時間数を調整すればいいから、予算との折り合いも簡単にできます」

 などなど、多くのお客様に喜ばれております。

セミナーについて

当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。

セミナー開催実績例
  • 介護事業者様向け「改正介護保険法セミナー」
  • 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
  • 新規採用をお考えの事業者様向け
    「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
  • 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」

講演について

当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。

講演実績

日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修

「マイナンバー通知開始!
今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」

【参加者様からのお声】

  • 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
  • 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
  • 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
  • マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。

一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」

【参加者様からのお声】

  • メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
  • 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
  • メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
  • 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
  • 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
  • 株式会社LEC 様 主催
    「介護雇用管理研修」業務委託登録講師
  • 株式会社フィールドプランニング 様 主催
    「派遣元・派遣先責任者講習」業務委託主任講師
  • 神奈川韓国商工会議所様 主催
    経営者セミナー「お役立ち助成金講座
    (雇用の確保と5年ルールへの対応策)」
  • 日本経営開発協会様 御紹介
    株式会社根布工業様 主催
    安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ

講演会の講師紹介・講師派遣なら講演依頼.com

研修について

当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。

研修のご依頼例

  • 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
  • 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
  • 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい

執筆のご依頼

雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。

掲載履歴

HP記事執筆

ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。

「働き方改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」

「近代中小企業」2月号

「近代中小企業」2月号

「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。

「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」

「SR」 9月号

SR 9月号

ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。

ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。

(第27号 2012年8月6日発売)

元職員が指南する!ハローワークの効果的な利用の仕方

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