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NEW 降格・降給はどこまで認められる?派遣会社の人事リスク対策と実務対応ガイド   2025.10.24

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◆はじめに:成果主義の時代に「降格・降給」は避けられないテーマ 

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近年、労働市場の流動化やジョブ型雇用の浸透により、 

「成果主義的な人事評価制度」を導入する企業が増えています。 

 

派遣業界も例外ではありません。 

派遣スタッフの評価制度を整えたり、派遣先企業の基準に合わせて処遇体系を見直すなど、 

これまで以上に「成果」「役割」「ジョブ」に基づく賃金決定が求められるようになっています。 

 

その一方で、 

「成績が上がらない社員を降格できるのか?」 

「評価が低いスタッフの給与を下げてもいいのか?」 

といったご相談を、派遣会社の経営者・人事担当者の方から受けることが増えています。 

 

一言で「降格・降給」といっても、実務的には非常にデリケートなテーマです。 

誤った手続きや判断を行えば、 

労働トラブルや訴訟リスクに発展する可能性すらあります。 

 

本記事では、社会保険労務士の立場から、 

派遣会社が知っておくべき「降格・降給」の法的ルールと、 

実務でトラブルを防ぐための具体的な対策を詳しく解説します。 

 

 

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◆第1章 そもそも「降格」「降給」とは何か? 

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まず、基本的な用語を整理しておきましょう。 

 

**降格**とは、職位や役職を引き下げること。 

例えば「部長から課長に戻す」「チームリーダーを外れる」といった人事上の措置です。 

 

一方、**降給**とは、給与そのものを引き下げること。 

降格に伴って給与が下がるケースもあれば、 

職位はそのままで評価や成果に応じて給与が下がるケースもあります。 

 

特に近年は「成果主義型賃金制度」の普及により、 

従来の“年功的な給与カーブ”ではなく、 

「実績・成果・役割に応じて給与を上下させる」仕組みが広がっています。 

 

この流れの中で、「降格」「降給」の場面が増えているのです。 

 

 

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◆第2章 降格・降給の法的根拠と人事権の限界 

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企業には、人事権という大きな裁量があります。 

従業員をどの部署に配置し、どの役職に就けるかを決めることは、 

原則として会社の判断に委ねられています。 

 

しかし、この「人事権」にも限界があります。 

 

裁判例では次のように整理されています: 

 

> 企業が降格を行う場合、就業規則に根拠があり、 

> かつ合理的な理由と手続を経ていることが必要。 

> (ハネウェルジャパン事件・東京高裁平成17年1月19日) 

 

つまり、「就業規則に根拠があるか」「判断が合理的か」がポイントです。 

 

たとえば、勤務成績や業務能力が著しく低下した場合に、 

就業規則上「業務上の適性に応じて職位を変更することがある」と定められていれば、 

一定の範囲で降格は認められます。 

 

ただし、**賃金の減額**を伴う場合はより慎重な対応が必要です。 

 

就業規則に「評価に応じて賃金を改定する」と明記されていなければ、 

たとえ人事権の範囲内であっても、給与の引き下げは無効と判断されるリスクがあります。 

 

また、明確な基準がなく恣意的に降格を行った場合、 

「権利の濫用」として無効とされる可能性もあります。 

 

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💡 **ポイントまとめ** 

- 降格そのものは人事権の範囲内 

- ただし、賃金減額を伴う場合は就業規則に明記が必要 

- 恣意的・報復的な降格は「権利の濫用」として無効 

 

 

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◆第3章 ジョブ型雇用の普及と「降級」の新しい論点 

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2024年8月、厚生労働省が「ジョブ型人事指針」を発表しました。 

これは、職務や役割に応じて給与を決定するジョブ型制度の普及を促すための指針です。 

 

※参照)厚生労働省「職能給」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syokumukyu.html

 

ジョブ型では、従業員一人ひとりに「職務(ジョブ)」が明確に定義され、 

その職務価値に応じて給与や等級が設定されます。 

 

このため、職務が変われば賃金も変わるのが当然となります。 

 

つまり、職務変更に伴う「降級(等級の引き下げ)」が行われることもあります。 

 

ただし、この場合も就業規則上に「職務・役割変更に応じて等級・賃金が変更される」旨を 

明記しておくことが必須です。 

 

大阪地裁の「CFJ合同会社事件」(平成25年2月1日)では、 

職務変更に伴う賃金減額が就業規則上に明記されていたため有効と判断されました。 

 

一方で、根拠が曖昧で勤務成績の不良が明確でない場合には、 

降級が「退職勧奨の一環」とみなされ、無効とされた例もあります。 

 

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💡 **ジョブ型人事での注意点** 

- 職務ごとに等級と給与が定義されているか 

- 職務変更に伴う給与変更ルールが明文化されているか 

- 降級の判断に客観的根拠があるか 

 

派遣会社がジョブ型を取り入れる場合、 

派遣スタッフの職務範囲と評価方法を明確に定義しないと、 

トラブルの火種となりかねません。 

 

 

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◆第4章 派遣会社特有の「降格・降給」リスク 

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派遣会社の場合、 

降格・降給のトラブルは「本社社員」だけでなく、 

「派遣スタッフ」との関係でも発生します。 

 

特に次のような場面は要注意です。 

 

- 派遣先の評価結果をもとに賃金を見直す場合 

- 派遣契約の更新時に給与水準を変更する場合 

- 派遣先変更に伴い、職務内容が軽くなった場合 

 

これらはいずれも「降給」に該当する可能性があります。 

 

そのため、 

・派遣契約書や就業規則に「評価に応じて賃金を改定する」旨を明記する 

・派遣先評価をそのまま反映せず、自社基準で確認する 

・説明責任を果たし、本人に納得してもらう 

といったステップが欠かせません。 

 

派遣スタッフの場合、 

正社員以上に「労働条件の説明責任」が重視されます。 

わずかな対応ミスでも「不当な扱い」と受け取られ、 

トラブルやSNS投稿などに発展するケースもあります。 

 

 

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◆第5章 就業規則と人事評価制度の連動がカギ 

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実務上、「降格・降給」のトラブルを防ぐ最大のポイントは、 

**就業規則と人事評価制度を連動させること**です。 

 

就業規則に「人事評価の結果により職位・賃金を変更することがある」と明記し、 

人事評価制度には「評価項目・判定基準・見直し手順」を定義する。 

 

この二つが連動していれば、 

「恣意的に降格された」「理由が分からない」といった主張を防ぐことができます。 

 

評価結果を本人にフィードバックし、 

改善のための支援や目標設定を行うことで、 

“懲罰的な降格”ではなく“成長支援型の人事措置”として理解されやすくなります。 

 

 

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◆第6章 トラブルを未然に防ぐ5つの実務対策 

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1️⃣ **就業規則の整備** 

降格・降給の基準と手続を明文化し、評価制度との整合性を確保。 

 

2️⃣ **評価制度の透明化** 

評価項目や基準を社員に説明し、納得感を高める。 

 

3️⃣ **人事記録の保管** 

評価結果や面談記録を残し、判断の合理性を示せるようにする。 

 

4️⃣ **降格・降給前のフォロー面談** 

いきなり通知せず、改善機会や支援策を提示する。 

 

5️⃣ **派遣スタッフへの説明責任の徹底** 

契約条件変更時には必ず書面で説明し、同意を得る。 

 

これらを徹底するだけで、 

後々の紛争リスクを大幅に減らすことができます。 

 

 

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◆第7章 制度改定のタイミングで専門家に相談を 

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成果主義やジョブ型人事を導入する際、 

最も多いトラブルが「降給の根拠不足」と「説明不足」です。 

 

評価制度を作るだけでは不十分で、 

それをどう賃金制度と連動させるか、どう就業規則に落とし込むかが重要です。 

 

社内でルールを整えるのは簡単ではありませんが、 

社会保険労務士などの専門家と連携すれば、 

実務運用に耐えうる制度設計が可能です。 

 

 

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◆まとめ:正しいルール整備が「信頼経営」を守る 

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「降格・降給」は、企業経営において避けて通れない判断です。 

しかし、そこに**明確なルール**と**公平な手続き**があれば、 

社員の信頼を失うことなく、組織を健全に保つことができます。 

 

派遣会社にとっては、 

正社員だけでなく派遣スタッフとの関係性も含めた 

多層的な人事リスクへの対応が求められます。 

 

法的リスクを防ぎながら、公正で納得感のある制度を運用すること。 

それが、成果主義時代を生き抜くための「労務管理力」と言えるでしょう。 

 

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💬 **社会保険労務士からのメッセージ** 

降格・降給の判断は、人の評価と生活に直結するため、慎重な運用が欠かせません。 

「トラブルが起きてから」ではなく、「制度を見直す段階で」予防することが最も重要です。 

 

就業規則の改訂、人事制度の見直し、派遣スタッフの評価制度設計など、 

現場の実情に合わせたアドバイスを行っています。 

初回相談は無料ですので、ぜひお気軽にご相談ください。 

 

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こちらの「事務所案内」をご参照ください

オンライン講座「今さら聞けない派遣110番!」

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セミナー、研修、講演開催

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セミナー、研修、講演 1時間10万円定額制

講演内容、業種、出席者数に関わらず、すべて定額の時間単価とさせて頂きます。業界きっての画期的な明朗会計です。 

「予め料金が分かっているので、安心して申し込めます」

 「料金交渉が不要で助かります」

 「時間単価は一定なので、研修時間数を調整すればいいから、予算との折り合いも簡単にできます」

 などなど、多くのお客様に喜ばれております。

セミナーについて

当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。

セミナー開催実績例
  • 介護事業者様向け「改正介護保険法セミナー」
  • 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
  • 新規採用をお考えの事業者様向け
    「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
  • 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」

講演について

当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。

講演実績

日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修

「マイナンバー通知開始!
今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」

【参加者様からのお声】

  • 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
  • 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
  • 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
  • マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。

一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」

【参加者様からのお声】

  • メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
  • 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
  • メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
  • 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
  • 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
  • 株式会社LEC 様 主催
    「介護雇用管理研修」業務委託登録講師
  • 株式会社フィールドプランニング 様 主催
    「派遣元・派遣先責任者講習」業務委託主任講師
  • 神奈川韓国商工会議所様 主催
    経営者セミナー「お役立ち助成金講座
    (雇用の確保と5年ルールへの対応策)」
  • 日本経営開発協会様 御紹介
    株式会社根布工業様 主催
    安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ

講演会の講師紹介・講師派遣なら講演依頼.com

研修について

当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。

研修のご依頼例

  • 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
  • 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
  • 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい

執筆のご依頼

雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。

掲載履歴

HP記事執筆

ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。

「働き方改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」

「近代中小企業」2月号

「近代中小企業」2月号

「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。

「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」

「SR」 9月号

SR 9月号

ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。

ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。

(第27号 2012年8月6日発売)

元職員が指南する!ハローワークの効果的な利用の仕方

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