2026年カスハラ対策義務化で何が変わる?派遣会社が今すぐ取り組むべきこと
2025.10.15
### 1. はじめに:カスハラ防止が「企業の義務」になる時代へ
2026年中に施行予定の「改正労働施策総合推進法」によって、
企業は「カスタマーハラスメント(カスハラ)」防止のための措置を講じることが義務化されます。
これまでは、パワーハラスメント(パワハラ)やセクシャルハラスメント(セクハラ)など、
社内で起きるハラスメントに対して企業の防止義務が定められていました。
しかし、「顧客から従業員に対するハラスメント」に関しては、明確な法的義務は存在していませんでした。
つまり、「お客様からの暴言」「過度なクレーム対応」「人格を否定するような要求」など、
従業員が日常的に受けていた精神的負担に対して、企業として守るための仕組みが不十分だったのです。
改正法の成立により、カスハラはようやく法の下で正式に「防止義務の対象」となりました。
これは、職場におけるメンタルヘルスや安全配慮義務の観点からも、非常に大きな一歩です。
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### 2. カスハラとは?その定義と派遣現場の実情
「カスタマーハラスメント(カスハラ)」とは、
顧客が企業やその従業員に対して、社会通念を超える不当な言動を行うことを指します。
典型的な事例としては、次のようなケースが挙げられます。
- 暴言や威圧的な態度を繰り返す
- 不当な要求を執拗に続ける
- 長時間にわたってクレーム対応を強要する
- SNSなどでの誹謗中傷
- 人格を否定するような言葉を投げつける
派遣スタッフの現場では、特に「派遣先の顧客」からこうした行為を受けるケースが少なくありません。
しかし、多くのスタッフは「お客様だから仕方ない」「派遣先との関係を悪くしたくない」といった理由から、
我慢してしまう傾向にあります。
結果として、心身の不調や離職につながるケースもあり、
企業にとっては“見えないコスト”として大きな損失となっています。
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### 3. 改正法の概要:企業に求められる対応
今回の改正では、以下の3点が企業に求められます。
#### ① 防止方針の明確化
カスハラに対する企業の基本的な考え方を明文化し、
全従業員が理解できる形で共有する必要があります。
社内ポリシーや就業規則に明記し、派遣先企業とも共有することが望まれます。
#### ② 相談体制・窓口の整備
被害を受けた従業員が安心して相談できる窓口を設けることが義務化されます。
担当者は守秘義務を持ち、適切な対応・助言を行う体制を整えることが求められます。
#### ③ 実効性の確保
単に「方針を掲げただけ」では不十分です。
教育・研修・マニュアル整備などを通じて、実際に防止策が機能するように運用することが必要です。
罰則規定は設けられていませんが、行政指導や公的評価、さらには取引先からの信用など、
実質的な社会的リスクを考えれば「やらない理由はない」と言えるでしょう。
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### 4. 同時改正:女性活躍推進法・男女雇用機会均等法
今回の法改正では、「女性活躍推進法」や「男女雇用機会均等法」に関しても重要な変更が行われました。
#### 女性活躍推進法の改正
従業員101人以上の企業に対し、
「女性管理職比率」と「男女の賃金差異」の公表が義務付けられます。
施行は2026年4月1日。
企業の透明性がより一層求められ、
「人材の見える化」を進めることが社会的責任となっていきます。
#### 男女雇用機会均等法の改正
採用活動中の学生に対するセクハラ防止も義務化されました。
特に採用担当者や面接官に対しては、明確なルールや教育体制の整備が必要です。
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### 5. 派遣会社が取るべき3つの実務対応
派遣会社にとって、今回の改正は“自社内の体制整備”だけでなく、
“派遣先との協力体制”が極めて重要になります。
#### ステップ①:現場の声を聞く
まずは、派遣スタッフ・営業担当・管理職などから、
現場で実際にどのような顧客対応が行われているかをヒアリングします。
「カスハラを受けたけど報告しなかった」というケースがないか確認することが第一歩です。
#### ステップ②:方針とマニュアルの整備
カスハラの定義や対応手順、報告ルート、派遣先への連絡方法などを具体的に文書化します。
派遣契約書には「カスハラ防止における協力条項」を盛り込むことで、
派遣元・派遣先双方の責任範囲を明確にできます。
#### ステップ③:教育と啓発
派遣スタッフ・営業担当・派遣先責任者など、立場ごとに適切な研修を実施します。
「我慢する」文化から「報告・相談する」文化へ。
相談しやすい環境をつくることで、問題の早期発見・再発防止につながります。
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### 6. カスハラ対策のポイント:派遣先との連携が鍵
派遣会社単独での対応には限界があります。
実際にカスハラが発生する現場は、派遣先企業であることがほとんどです。
そのため、派遣契約時や定例ミーティングなどを活用し、
派遣先と共に「カスハラ防止方針」を共有することが不可欠です。
派遣スタッフが安心して働ける環境を整えることは、
派遣先にとっても定着率の向上や生産性の向上につながるメリットがあります。
企業同士の協働で、より良い就労環境を築いていくことが理想です。
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### 7. カスハラ対策を「義務」から「企業文化」へ
今回の改正は単なる法令対応ではありません。
「従業員を守ること」が「企業を守ること」に直結する時代が来ています。
カスハラ防止を経営課題として位置づけることで、
企業のブランド価値や採用力も確実に向上します。
従業員が安心して働ける環境を整えることは、
結果的に顧客満足度やサービス品質の向上にもつながります。
「法に従う」だけでなく、「人を守る文化をつくる」ことが、
今後の企業経営における重要な視点になるでしょう。
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### 8. フリーランス保護にも広がる議論
改正法の付則には、「フリーランスとして働く人の保護を検討する」と明記されています。
働き方の多様化が進む中で、雇用関係にない立場の人たちに対しても、
ハラスメント防止や安全配慮が求められるようになる可能性があります。
派遣会社としても、業務委託契約を結ぶ外部人材への対応を見直すきっかけになるでしょう。
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### 9. 社労士の視点:法令対応と現場運用の“橋渡し”を
社会保険労務士として感じるのは、制度ができても「現場で機能しない仕組み」が多いということです。
たとえば、「相談窓口を設けたけれど、誰も使わない」「報告しても対応が遅い」など、
運用面での課題が必ず発生します。
大切なのは、“制度を現場で活かすこと”。
そのためには、
- 実際の相談対応フローを明確にする
- 担当者教育を継続的に行う
- 相談内容を匿名で共有し、再発防止に生かす
といった地道な仕組みづくりが必要です。
社労士としては、
就業規則・派遣契約・研修・相談体制の整備など、
「制度設計+運用支援」の両面から企業をサポートしていくことが求められます。
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### 10. まとめ:2026年に向けた「守るための準備」を今から
2026年のカスハラ防止義務化は、
すべての企業に「従業員を守る経営」を求める流れの象徴です。
派遣会社にとっては、
スタッフの安全と働きやすさを守ることが、
結果的にクライアント企業の信頼や自社の成長にもつながります。
「お客様は神様」という時代から、
「お客様も従業員も大切にする時代」へ。
今こそ、自社の現場を見直し、
相談体制や方針整備をスタートさせるタイミングです。
---
👩💼 社労士として、現場実務と法令の間に立ち、
派遣会社の皆さまが安心して対応できるようお手伝いします。
制度対応はもちろん、「現場で機能する仕組みづくり」を一緒に進めていきましょう。
当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
【関連記事】
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA027PU0S5A600C2000000/
【参考】
厚生労働省「令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部改正について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html
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「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
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一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
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- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
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研修のご依頼例
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- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)