労働者派遣業の倒産が過去最多ペース!派遣会社が生き残るための戦略とは
2025.09.09
## 1. 労働者派遣業の倒産が急増している現状
2025年1月から8月までに発生した労働者派遣業の倒産は59件。
前年同期比で55%以上の増加となり、このままのペースが続けば通年で90件前後に達すると予測されています。
※参照記事)https://news.yahoo.co.jp/articles/741c2f142d4eaaaf16e761ce42b0098146e0bed0
これは2014年の85件を超え、**過去最多の倒産件数**となる可能性が非常に高いのです。
派遣会社を経営する皆さまにとって、この数字は決して他人事ではありません。
「なぜこれほど倒産が増えているのか」「自社は大丈夫なのか」と不安を抱く経営者も多いのではないでしょうか。
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## 2. 過去最多ペースの背景にある要因
倒産増加の背景には、いくつもの要因が複雑に絡み合っています。主な要因を整理すると次の通りです。
- **人材確保の難しさ**:労働人口が減少するなかで、派遣スタッフの採用自体が困難。
- **賃上げによる人件費上昇**:物価高や政府の方針による賃上げ機運の広がり。
- **コロナ禍からの借入負担**:ゼロゼロ融資などによる過剰債務が返済フェーズに。
- **人材ミスマッチの拡大**:確保できた人材が派遣先のニーズに合わず、契約打ち切りやクレームにつながる。
これらが重なり、資金繰りや収益構造を圧迫し、倒産に至るケースが増えているのです。
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## 3. 地方圏にも広がる倒産の波
倒産は首都圏だけの問題ではありません。
帝国データバンクの調査では、東北・近畿・九州などの地方でも過去最多水準を記録しています。
地方圏の派遣会社は、母体となる企業規模が小さいことが多く、資本体力に限界があります。
そのため、人材不足や単価競争の影響を受けやすく、首都圏以上に経営環境は厳しいといえるでしょう。
「東京の話だから関係ない」とは、もはや言えない状況なのです。
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## 4. 零細企業だけでなく中堅規模も苦境
倒産件数を負債規模別にみると、5000万円未満の零細企業が最多ですが、1億円以上の倒産も全体の約3割を占めています。
つまり、年商数億〜十数億円規模の派遣会社も決して安全ではありません。
「うちはそこそこ規模があるから大丈夫」と考えるのは危険です。
むしろ中堅規模の会社ほど、規模拡大に伴う固定費増加や人材確保コストが重くのしかかり、経営の柔軟性を失いやすい面があります。
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## 5. 人材確保を巡る競争の激化
企業の人手不足は深刻で、派遣人材への需要はむしろ高まっています。
帝国データバンクの調査では、「人材派遣・紹介」業界における人材不足感は全業種でトップ。
つまり「需要はあるのに供給できない」というジレンマに陥っているのです。
この状況では、派遣会社同士の人材獲得競争は激化する一方。
求人広告費が増加し、紹介料や待遇改善も求められるため、コストが膨らみます。
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## 6. 質の低下による派遣先からのクレーム
人材確保を優先するあまり、スキルや適性を十分に確認せずに派遣してしまうケースも増えています。
結果として、派遣先からの不満やクレームにつながり、契約更新を断られることも。
「派遣人数を揃えたのに収益が伸びない」という悪循環に陥るリスクが高まっています。
ここで大切なのは、「数」ではなく「質」をいかに担保するかという視点です。
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## 7. 社労士から見た「二重のプレッシャー」
社会保険労務士として現場を見ていると、派遣会社には二重のプレッシャーがかかっていると感じます。
- 一方で「人を確保しなければならない」プレッシャー
- もう一方で「収益を確保しなければならない」プレッシャー
この板挟みの中で、待遇改善をしても利益が出ず、逆にサービス品質が下がって信頼を失う…というケースは少なくありません。
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## 8. 派遣会社が取り組むべき労務戦略
では、この厳しい環境で派遣会社はどう生き残ればよいのでしょうか。
私が提案する労務戦略は次の通りです。
### ① 派遣先との単価交渉をデータに基づいて行う
労務コスト上昇を数字で示し、値上げの必要性を理解してもらう。
### ② 人材定着を促す仕組みを整える
キャリア形成支援や評価制度の導入で、スタッフが「長く働きたい」と思える環境をつくる。
### ③ 採用から定着までのプロセスを見直す
求人広告に頼るだけでなく、リファラル採用や教育研修で質を高める。
### ④ コスト管理と労務リスク対策を徹底する
時間外労働管理、社会保険適正化など、ムダなコストを抑える。
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## 9. 「選ばれる派遣会社」になるために必要な視点
これからの派遣会社は、単に「人を派遣する会社」では生き残れません。
必要なのは、**派遣先にとって信頼できるパートナー**としての存在感です。
そのためには、
- 人材の質と安定した供給
- 派遣スタッフにとって魅力的な就業環境
- 派遣先との長期的な信頼関係
をバランスよく実現することが求められます。
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## 10. まとめ:淘汰の時代はチャンスの時代でもある
労働者派遣業は今、かつてないほど厳しい淘汰の時代を迎えています。
しかし同時に、再編や成長のチャンスも存在します。
需要は確かにあります。
だからこそ「選ばれる派遣会社」になるための工夫と努力が、これまで以上に求められています。
派遣会社の皆さまにとって、この状況は大きな試練ですが、同時に大きな転機でもあります。
今こそ、自社の人材戦略と労務体制を見直し、未来につながる経営を築いていきましょう。
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✍ 社会保険労務士として、派遣業界の労務課題や戦略づくりをサポートしています。
同じような課題を感じている方は、ぜひご意見をお聞かせください。
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講演内容、業種、出席者数に関わらず、すべて定額の時間単価とさせて頂きます。業界きっての画期的な明朗会計です。
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「料金交渉が不要で助かります」
「時間単価は一定なので、研修時間数を調整すればいいから、予算との折り合いも簡単にできます」
などなど、多くのお客様に喜ばれております。
セミナーについて
当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。
セミナー開催実績例
- 介護事業者様向け「改正介護保険法セミナー」
- 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
- 新規採用をお考えの事業者様向け
「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
講演について
当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。
講演実績
日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修
「マイナンバー通知開始!
今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」
【参加者様からのお声】
- 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
- 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
- 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
- マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。
一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
- 株式会社LEC 様 主催
「介護雇用管理研修」業務委託登録講師 - 株式会社フィールドプランニング 様 主催
「派遣元・派遣先責任者講習」業務委託主任講師 - 神奈川韓国商工会議所様 主催
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株式会社根布工業様 主催
安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ
研修について
当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)