【派遣会社が必ず押さえるべき「労働者派遣契約書の必須記載事項」最新版ガイド】
2025.11.26
労働者派遣事業に携わる皆さまにとって、「労働者派遣契約書」は事業運営の根幹ともいえる書類です。
派遣元と派遣先の役割を明確にし、派遣スタッフの保護と適正な取引関係を担保するため、法令で細かく記載事項が定められています。
しかし実務では、契約書そのものよりも「現場とのズレ」によってトラブルが発生しているケースが非常に多いのが現実です。
社労士として実際に派遣会社を支援してきた経験からも、契約内容が曖昧だったり、更新のたびにコピーペーストで細部が整っていなかったり、現場で業務が変更されているのに契約書が追いついていないといった状況がしばしば見られます。
この記事では、派遣会社の方が「最低限ここだけは押さえておきたい」という視点で、労働者派遣契約書の必須記載事項と実務で気をつけるべきポイントを、できるだけ分かりやすく整理して解説します。
法令対応だけでなく、トラブル防止や運用の安定化にも役立つ内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
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## 1. 労働者派遣契約書とは?派遣事業の“土台”となる重要書類
労働者派遣契約書とは、派遣元と派遣先が派遣労働者を受け入れるにあたり締結する契約で、労働者派遣法に基づく必須文書です。
ここで注意したいのは、これは派遣スタッフ本人と締結する「雇用契約書」とは別物であるという点。
派遣契約書は、派遣元・派遣先の責任と役割分担を明確化するための書類であり、業務内容や指揮命令系統、派遣期間、派遣料金、安全衛生措置など、多くの事項を記載することが義務付けられています。
この契約内容が曖昧だと、
・偽装請負と判断される
・責任の押し付け合いが起こる
・トラブル発生時に迅速な対応ができない
など、実務上大きなリスクになります。
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## 2. まずは押さえたい「必須記載事項」の全体像
労働者派遣契約書には、法律で定められた必須記載事項が多数存在します。主な項目は次の通りです。
・派遣労働者が従事する業務内容
・派遣期間(開始日・終了日)
・派遣料金の額および計算方法
・派遣先が講じる安全衛生措置
・派遣元・派遣先の苦情処理体制
・機密保持に関する事項
・派遣元責任者・派遣先責任者の選任
・派遣先が講じる教育訓練の内容
多く感じるかもしれませんが、それぞれにきちんと意味があります。
これらを漏れなく記載し、かつ現場の実態に合っているかどうかを確認することが、派遣トラブルを防ぎ、行政指導を避ける基本になります。
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## 3. 最重要ポイント①:業務内容・指揮命令系統の明確化
派遣契約書で最も重要な項目の一つが「業務内容と指揮命令系統」です。
業務内容の記載が曖昧だと、
・本来の業務と違う業務をさせてしまう
・派遣先が本来行ってはならない指揮命令を行う
・実質的に請負と変わらない状態になる
と判断され、偽装請負などの重大な法令違反に発展する可能性があります。
社労士として現場支援をしていると、次のような状況がしばしば発生しています。
・「書類作成など」という抽象的すぎる業務記載
・現場で業務内容が変更されても契約が更新されていない
・派遣先が指示してよい範囲が整理されていない
これらは派遣会社にとってリスクが大きいため、業務内容は可能な限り具体化することが重要です。
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## 4. 最重要ポイント②:派遣期間と期間制限(3年ルール)の取り扱い
派遣期間は「開始日」と「終了日」を必ず明記します。
そのうえで特に注意が必要なのが「同一組織単位での受け入れ期間(原則3年)」です。
この3年ルールは、派遣先の部署単位で適用されるため、組織変更や配置変更があると誤った判断につながりやすく、行政指導でも非常に多いポイントです。
よくあるのは、
・同じ部署なのに名称だけ変わったことで“別組織”と勘違いする
・更新のタイミングで期間制限を再計算していない
といったケースです。
期間制限違反は法令上の重大な違反に該当します。
派遣会社としては、契約更新時に必ず受け入れ単位を確認し、適切な説明と記録を残すことが求められます。
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## 5. 最重要ポイント③:派遣料金と計算方法、労使協定方式との整合性
派遣料金については、単に金額を書くのではなく「計算方法まで書く」ことが法令上求められています。
また、派遣元が労使協定方式を採用している場合は、
・労使協定に基づいた賃金設定
・マージン率公開との整合性
を意識する必要があります。
派遣料金は派遣会社の経営の根幹を支える部分ですが、同時に派遣労働者の処遇改善にも直結します。
料金の透明性と説明責任は、近年ますます重視されるポイントです。
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## 6. 安全衛生措置・教育訓練は“契約書に盛り込む時代”
派遣スタッフの安全衛生管理は、派遣元・派遣先双方の責任領域が絡むため、トラブルが起こりやすい領域です。
代表的な混乱例は、次のとおりです。
・労災が発生した時、誰がどこまで対応するのか不明確
・派遣先の安全教育を受けておらず、業務で事故が発生
・派遣元に情報が共有されず、再発防止策が取れない
これを防ぐためにも、
「派遣先が講じる安全衛生措置」
「派遣元と派遣先それぞれの対応範囲」
を契約書に明記することが重要です。
派遣労働者を受け入れる職場の環境が変化しやすい業種(製造・物流など)では特に注意が必要です。
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## 7. 苦情処理体制の明確化でトラブルを最小化
派遣元・派遣先のどちらが苦情処理を行うのか、そのフローも必須記載事項の一つです。
「まず誰に伝えるべきなのか」
「どちらの責任で対応するのか」
「報告・記録はどのように行うか」
これらが曖昧だと、派遣スタッフが適切に相談できず、不満が蓄積した状態で退職や紛争に発展することがあります。
契約書で仕組みを明確にすることで、対応の早期化・可視化につながり、結果としてトラブル防止につながります。
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## 8. 契約と現場の“ズレ”を防ぐためのチェックポイント
契約書自体が正しくても、現場運用と一致していなければ意味がありません。
社労士として現場を見ていると、次のようなズレがよく見られます。
・現場で業務内容が追加されている
・配置換えによって受入組織単位が変わっている
・指揮命令を行う担当者が変わったのに契約書が更新されていない
・派遣料金の計算基礎が実態と異なる
こうしたズレは、行政監査の際に必ず指摘されるポイントです。
定期的な契約見直しと、派遣先との情報共有が不可欠です。
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## 9. 派遣会社が社労士に相談すべきタイミングとは?
次のようなケースでは、専門家に相談することでトラブル予防につながります。
・法改正があったが、自社契約が対応できているか不安
・複数の派遣先で運用方法がバラバラ
・契約更新のたびに内容がズレていないか確認したい
・初めて新しい職種や業務を派遣する
・労働局から行政指導を受けたことがある
派遣事業は法的ルールが多く複雑なので、定期的な点検があるだけで安心して運営できます。
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## 10. まとめ:派遣契約書は「作れば終わり」ではなく「運用が命」
労働者派遣契約書は、派遣元・派遣先・派遣スタッフ全員を守るための重要な書類です。
・必須記載事項を漏れなく整理する
・実態と契約内容が一致しているか確認する
・更新のたびに内容を見直す
・不明点があれば早めに専門家に相談する
このサイクルを丁寧に行うことで、派遣会社としての信頼性が高まり、安定した運営につながります。
派遣事業は複雑な部分もありますが、ポイントさえ押さえれば必ずうまく回ります。
この記事が、現場運用と法令遵守のバランスをとる際の参考になれば幸いです。
ご相談の際は、当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
【参考リンク】
厚生労働省「労働者派遣事業に係る契約書・通知書・台帳関係様式例」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/riyousha_mokuteki_menu/mokuteki_naiyou/haken_part/youshikirei.html
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講演実績
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一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
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- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
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当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)


