日本全国の派遣会社で増える36協定トラブル|社労士が教える正しい届出・運用方法
2025.11.25
## 日本全国の派遣会社で増える「36協定トラブル」
――その背景と共通する課題とは?
近年、日本全国の派遣会社で「36協定(時間外・休日労働に関する協定)」に関する相談が急増しています。
私自身、全国対応の社会保険労務士として日々さまざまな地域の派遣会社を支援していますが、地域差に関係なく、扱う課題は驚くほど共通しています。
特に派遣業界では、複数の派遣先を抱え、勤務形態も多岐にわたるため、他の業界以上に労働時間管理が複雑になりやすいという特徴があります。
この複雑さが、36協定の作成・締結・運用のどこかでほころびを生み、気付かないうちに「法令違反の状態になっていた」というケースが全国的に増えているのです。
本記事では、日本全国の派遣会社で実際に起きているトラブルを踏まえながら、「36協定届」を正しく作成・運用するためのポイントを社会保険労務士の視点からわかりやすく解説していきます。
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## 1. 派遣会社が36協定でつまずきやすい理由
### ― 労働時間管理の難しさと業界特性
派遣会社が36協定で問題を起こしやすい背景には、次の三つの理由があります。
### ① 派遣先が複数にまたがるため、労働時間が見えにくい
一人の派遣社員が「午前はA社、午後はB社」と複数の現場を移動することは珍しくありません。
しかし、この労働時間を派遣元が一元管理できていないケースが非常に多いのです。
### ② 派遣先からの勤務実績報告が遅れがち
派遣先によって報告方法もスピードもバラバラのため、締め日に間に合わず、結果的に時間外労働の把握が遅れることがあります。
### ③ 現場ごとの繁忙期のズレが大きい
派遣業界特有の課題として、「繁忙期が現場ごとに異なる」という点があります。
そのため、特別条項を安易に導入しても、実態に合わず、後々トラブルに発展しやすいのです。
こうした業界特性が、36協定の作成と運用におけるリスクを高めているといえます。
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## 2. まず押さえるべき「36協定届」の基本構造
### ― 書類作成そのものより“中身の整合性”が重要
36協定届は、ただ書類を作成すれば終わりというものではありません。
「就業実態」「派遣先の要求」「社内規程」と整合していなければ、むしろリスクが増大します。
押さえるべき基本ポイントは次の通りです。
### ● 労働者代表の適正な選出
派遣社員も含め、全従業員の中から民主的な手続きで選ばなければなりません。
全国的に見ても、「事務員が指名した」「管理職が勝手に選んだ」といった誤ったケースは非常に多いです。
### ● 時間外労働の上限設定
・1日の時間外
・1か月の時間外
・1年の時間外
・休日労働の有無
これらを正しい基準に従って設定する必要があります。
### ● 特別条項の扱い
派遣会社が最もつまずきやすい項目です。
特に、「発動条件」「理由書の保管」「適用回数」などを曖昧なまま導入してしまうと、後で監督署から指摘されるケースが全国で多発しています。
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## 3. 全国の派遣会社で実際に起きた代表的トラブル
社会保険労務士として相談を受けた中から、全国で特に多い事例を紹介します。
### ◆ ケース1:複数派遣先の労働時間の合算漏れ
A社とB社に同日勤務していたのに、各現場の労働時間が別々に管理されていたため、月の時間外が把握できていなかったケース。
結果、36協定の範囲を大幅に超えていた事例があります。
**→ 対策:労働時間の“一元管理システム”の導入が最優先**
### ◆ ケース2:特別条項が実態とズレていた
「繁忙期はだいたい12月頃」という曖昧な理由で特別条項を導入したものの、実際の繁忙期は現場ごとに毎月発生。
監督署調査で理由書不備を指摘され、改善指導となった例があります。
**→ 対策:発動基準を「現場別」に明確化し、理由書を適切に保管**
### ◆ ケース3:労働者代表の選出が無効
管理職が独断で「この人でいいよね」と決めてしまい、後日それが無効と判断され、協定自体が否認された事例。
**→ 対策:派遣社員を含めた“民主的な投票手続き”が必須**
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## 4. 派遣先との契約内容と36協定内容の不一致
### ― 日本全国で頻発する「盲点」
派遣先からのシフト要望に合わせて働かせているのに、36協定がその勤務実態と合っていないというケースが全国的に非常に多いです。
### ● よくある不一致パターン
・派遣先の要望で連続勤務が増えている
・派遣先の繁忙期に合わせて残業が偏っている
・協定上は「休日労働なし」なのに、現場では休日稼働が常態化している
こうした不一致が長期化すると、監督署からの指導につながるだけでなく、派遣先との信頼関係にも影響します。
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## 5. 協定期限切れは全国の派遣会社で“最も多いミス”
全国の派遣会社で最も多いのは、実はとてもシンプルな「期限切れ」です。
36協定は1年ごとに更新が必要ですが、
「担当者の退職」
「業務の引き継ぎ漏れ」
「現場対応で手一杯になり失念」
といった理由で、期限切れ期間が数か月続く例も珍しくありません。
### ● 対策
・更新月をシステムで自動管理
・担当者を複数名にする
・社労士と連携して年次ルーチン化
期限切れは最も防げるミスであるにも関わらず、全国的に多発しているのが現状です。
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## 6. 日本全国の派遣会社で共通する「周知の難しさ」
36協定は作成して終わりではなく、労働者への周知が義務です。
しかし派遣社員は全国各地に点在しているため、周知が不十分になりがちです。
### ● 効果的な周知方法
・社内ポータルでの共有
・電子メール配信
・チャットツールでの告知
・派遣先の休憩室への掲示依頼
・就業規則とセットで電子閲覧可能にする
周知が不十分だと、協定自体の有効性にも影響するため、特に注意が必要です。
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## 7. 36協定届の整備がもたらす“3つの大きなメリット”
### ① 労務リスクが大幅に軽減
監督署調査が入っても、正しく整備されているだけで会社の評価が全く違います。
### ② 派遣先からの信頼が向上
「労務管理がしっかりしている派遣会社」は、派遣先から見ても安心して依頼できる存在になります。
### ③ 労働者の満足度アップ
労働時間が曖昧だと不満は必ず増えます。
ルールが整備され、明確であるだけで安心感がまったく違います。
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## 8. 全国対応の社労士ができる支援内容
派遣会社の36協定は、他業種と比べても非常に専門性が高い領域です。
全国対応の社会保険労務士は次のような支援を行うことができます。
・労働者代表選出のサポート
・36協定の最適な内容の設計
・特別条項の運用基準づくり
・派遣先との契約内容との整合性チェック
・労働時間管理の仕組み改善
・更新時期の管理と年次スケジュール化
全国の派遣会社から寄せられる相談は年々増加しており、専門家のサポートはもはや“必須”と言える状況です。
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## 9. まとめ
日本全国の派遣会社で増えている36協定トラブルの多くは、
「複雑な業界特性」と「手続きの見落とし」が原因です。
しかし、正しい手続きと適切な運用ルールさえ整えてしまえば、36協定は派遣会社の“強い味方”になります。
・労務リスクの大幅削減
・派遣先からの信頼向上
・労働者の安心につながる体制づくり
これらを実現するためにも、36協定は形式ではなく“実態に合わせた設計”が不可欠です。
もし
「自社の36協定が本当に正しいのかわからない」
「労働時間管理が複雑で不安」
という気持ちが少しでもあれば、早めに専門家へ相談されることをおすすめします。
全国対応の社会保険労務士として、貴社の労務管理体制をしっかりサポートいたします。
ご相談の際は、当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
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「予め料金が分かっているので、安心して申し込めます」
「料金交渉が不要で助かります」
「時間単価は一定なので、研修時間数を調整すればいいから、予算との折り合いも簡単にできます」
などなど、多くのお客様に喜ばれております。
セミナーについて
当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。
セミナー開催実績例
- 介護事業者様向け「改正介護保険法セミナー」
- 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
- 新規採用をお考えの事業者様向け
「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
講演について
当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。
講演実績
日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修
「マイナンバー通知開始!
今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」
【参加者様からのお声】
- 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
- 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
- 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
- マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。
一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
- 株式会社LEC 様 主催
「介護雇用管理研修」業務委託登録講師 - 株式会社フィールドプランニング 様 主催
「派遣元・派遣先責任者講習」業務委託主任講師 - 神奈川韓国商工会議所様 主催
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(雇用の確保と5年ルールへの対応策)」 - 日本経営開発協会様 御紹介
株式会社根布工業様 主催
安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ
研修について
当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)


