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NEW 派遣料金の交渉をしていない派遣元が4割?今こそ見直すべき「価格転嫁」の重要性   2025.11.10

近年、「賃上げ」という言葉をニュースや行政方針の中で耳にする機会が増えました。 

政府も「構造的な賃上げの実現」を掲げ、労務費を適正に価格へ反映させることを強く求めています。 

 

そんな中、派遣業界にも大きな変化の波が訪れています。 

日本人材派遣協会が実施した「派遣先担当者調査」によれば、派遣会社から派遣料金の値上げ依頼があった企業のうち、**77.9%が値上げに応じた** という結果が出ました。 

 

これは前年(76.6%)からさらに上昇しており、企業が派遣社員の働きぶりや社会的な賃上げ機運を理解していることを示しています。 

一方で見逃せないのが、**派遣元の約40.6%が「派遣料金の値上げ依頼をしていない」** という事実です。 

 

本記事では、この「値上げを依頼していない派遣元」が抱える課題と、今こそ取り組むべき「価格転嫁」の重要性について、社会保険労務士の視点から詳しく解説していきます。

 

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## 1. 派遣料金の値上げに応じた企業は8割超。その背景とは

 

今回の調査では、派遣先企業の77.9%が派遣料金の値上げに応じています。 

この高い割合の背景には、次のような理由があります。

 

- **社会的な要請だから(73.8%)** 

- **派遣社員の働きぶりに満足しているから(42.8%)** 

 

つまり、企業は「賃上げをしなければならない社会的責任」を感じると同時に、派遣社員の働きに価値を見出しているのです。 

ここには「派遣=一時的な労働力」という古いイメージから、「派遣=即戦力で信頼できる人材」へと意識が変化している現状があります。

 

この変化は、派遣業界全体にとって追い風と言えるでしょう。 

しかし、ここで立ち止まって考えたいのが「派遣元の4割が交渉を行っていない」という現実です。

 

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## 2. なぜ派遣料金の値上げ交渉をしていない派遣元が存在するのか?

 

派遣元が料金交渉を行わない理由はさまざまです。 

現場でよく耳にするのは、以下のような声です。

 

- 「派遣先との関係が悪くなるのが怖い」 

- 「値上げを言い出すタイミングがわからない」 

- 「労使協定で賃金を上げても、派遣料金を上げる根拠をうまく示せない」 

- 「他社が値上げをしていないため、交渉の競争力を失うのが不安」 

 

気持ちはとてもよく分かります。 

特に取引関係が長い企業ほど、派遣料金の交渉は心理的なハードルが高いものです。 

 

しかし、これを続けてしまうと、派遣元の利益が圧迫され、結果的に派遣労働者の待遇やキャリア支援の質を維持できなくなります。 

つまり、**交渉を避けることが、結果的に「人材を守れない経営」につながってしまう** のです。

 

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## 3. 政府も動いた「労務費の適切な転嫁」への指針

 

こうした状況を受け、国も明確な姿勢を打ち出しています。 

2023年、内閣官房と公正取引委員会は共同で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を策定しました。 

 

この指針は、発注側(派遣先企業など)が受注側(派遣会社)に対し、 

「労務費上昇分を正当に反映した価格で契約を行うようにすべき」と定めたものです。 

 

つまり、国としても「賃金上昇を価格に反映しないことは問題である」と明確に位置づけています。 

派遣会社が料金改定を申し出ることは、決してわがままではありません。 

むしろ、「法律・指針に沿った正しい経営判断」なのです。

 

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## 4. 「派遣料金=労働条件」の根幹を支える仕組み

 

派遣料金の値上げは、単なる「営業上の話」ではありません。 

それは派遣労働者の賃金・待遇・キャリア形成のすべてに直結する「制度の根幹」です。 

 

例えば、派遣料金が据え置かれたままだと、次のような影響が出ます。

 

- 派遣社員の賃金を上げられない 

- 教育・研修・フォローにかける予算が減る 

- 優秀な人材が流出する 

- 労使協定における適正な賃金設定が困難になる 

 

これでは「働く人が安心して働ける仕組み」を保つことができません。 

派遣労働者を守るという観点からも、**料金交渉は経営と労務の両面で不可欠な行為** と言えます。

 

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## 5. 派遣料金を見直すベストタイミングは「今」

 

2025年現在、賃上げの流れは社会的にも企業的にも止まりません。 

むしろ、インフレ・人材不足・最低賃金上昇といった要因により、「価格転嫁」は避けて通れないテーマになっています。 

 

派遣会社にとって、この流れはチャンスでもあります。 

なぜなら、派遣先企業の7〜8割が「今後も派遣活用を継続・拡大する」と回答しているからです。 

 

つまり、企業は派遣という仕組みを信頼し、今後も利用していく意向を持っている。 

その信頼関係を維持しながら、正当な料金を設定することは、**双方にとっての持続可能な関係づくり** につながります。

 

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## 6. 値上げ交渉を成功させる3つのポイント

 

料金交渉をスムーズに進めるためには、感情ではなく「データ」と「根拠」に基づいた説明が重要です。 

以下の3つのステップを意識してみてください。

 

### ① 職種ごとの労務費を可視化する 

まずは労使協定で設定している職種・等級ごとの賃金を整理し、前年からの上昇率を明確にします。 

「この職種の平均賃金は前年比で〇%上がっています」という客観的データがあるだけで、交渉の説得力は大きく変わります。

 

### ② 業界動向と比較して説明する 

他社の値上げ動向や業界平均を踏まえ、「相場の中で適正な改定である」と示すことも重要です。 

特に協会や行政の公表資料を引用すれば、信頼性が高まります。

 

### ③ 人材の定着・品質向上を交渉材料に 

派遣料金を上げることで、結果的に派遣先の満足度が上がることを伝えましょう。 

教育・研修・フォロー体制を強化することで、「より質の高い派遣社員を確保できる」という視点は企業にとって納得しやすい理由になります。

 

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## 7. 派遣社員の質が「値上げを正当化する最大の要因」

 

調査では、派遣社員の働きぶりに満足している企業ほど、値上げに応じている傾向が見られました。 

これはつまり、**派遣社員の質の高さが派遣会社の交渉力そのもの** になっているということです。

 

派遣元としては、教育・フォロー体制をさらに充実させ、「信頼できる人材を送り出す会社」というブランドを築くことが、結果的に価格交渉を有利にします。 

単に「値上げしてください」ではなく、「人材の質を維持するために必要な改定です」と伝えることがポイントです。

 

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## 8. 令和8年度の労使協定に向けて準備を

 

次回の労使協定締結に向けて、今から動き出すことが大切です。 

職種の選定・賃金水準の見直し・賃金分析など、早めの準備が交渉の成否を分けます。 

 

多くの派遣会社がギリギリの時期に慌ただしく対応していますが、労使協定は「形を整える書類」ではなく、**派遣会社の経営方針を明文化する重要な契約** です。 

派遣料金の見直しも、この協定の内容と整合性をとることが求められます。

 

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## 9. 社会保険労務士が伝えたい「交渉の本質」

 

私が多くの派遣会社を支援してきた中で感じるのは、料金交渉を「相手にお願いする行為」と捉えているケースが多いということです。 

 

しかし本来、料金交渉とは「適正な労務費を社会に反映する」ための経営的責任です。 

派遣社員の生活を守り、業界全体の信頼を高める行為でもあります。 

 

言い換えれば、**派遣料金の交渉は“人を守る交渉”なのです。**

 

その視点を持つことで、交渉の場での自信や言葉の重みが変わってきます。

 

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## 10. まとめ:派遣料金の見直しは「業界の未来」への投資

 

派遣料金の見直しは、単なる金額の問題ではありません。 

それは、派遣業界全体の健全な成長と、派遣労働者が安心して働ける社会を築くための「基盤づくり」です。 

 

今後も人手不足が続く中で、「良い人材を確保できる派遣会社」こそが選ばれる時代になります。 

そのためには、適正な価格で取引を行い、派遣社員・派遣先・派遣元の三者が信頼でつながる関係を築くことが不可欠です。 

 

📩 労使協定の見直しや派遣料金交渉についてのご相談は、ホームページのお問合せよりいつでもお受けしています。 

初回相談は無料です。 

一緒に「人を守り、企業を強くする仕組み」を整えていきましょう。

 

【参照記事】

https://www.jomo-news.co.jp/articles/-/803864

 

【派遣料金交渉の参考資料】

派遣元・派遣先の連携について(厚生労働省)

https://www.mhlw.go.jp/content/001547832.pdf

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講演内容、業種、出席者数に関わらず、すべて定額の時間単価とさせて頂きます。業界きっての画期的な明朗会計です。 

「予め料金が分かっているので、安心して申し込めます」

 「料金交渉が不要で助かります」

 「時間単価は一定なので、研修時間数を調整すればいいから、予算との折り合いも簡単にできます」

 などなど、多くのお客様に喜ばれております。

セミナーについて

当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。

セミナー開催実績例
  • 介護事業者様向け「改正介護保険法セミナー」
  • 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
  • 新規採用をお考えの事業者様向け
    「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
  • 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」

講演について

当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。

講演実績

日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修

「マイナンバー通知開始!
今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」

【参加者様からのお声】

  • 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
  • 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
  • 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
  • マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。

一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」

【参加者様からのお声】

  • メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
  • 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
  • メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
  • 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
  • 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
  • 株式会社LEC 様 主催
    「介護雇用管理研修」業務委託登録講師
  • 株式会社フィールドプランニング 様 主催
    「派遣元・派遣先責任者講習」業務委託主任講師
  • 神奈川韓国商工会議所様 主催
    経営者セミナー「お役立ち助成金講座
    (雇用の確保と5年ルールへの対応策)」
  • 日本経営開発協会様 御紹介
    株式会社根布工業様 主催
    安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ

講演会の講師紹介・講師派遣なら講演依頼.com

研修について

当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。

研修のご依頼例

  • 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
  • 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
  • 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい

執筆のご依頼

雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。

掲載履歴

HP記事執筆

ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。

「働き方改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」

「近代中小企業」2月号

「近代中小企業」2月号

「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。

「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」

「SR」 9月号

SR 9月号

ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。

ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。

(第27号 2012年8月6日発売)

元職員が指南する!ハローワークの効果的な利用の仕方

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