教育訓練休暇給付金とは?派遣会社が知っておくべき制度のポイントと活用法
2025.10.03
### はじめに
2025年10月1日、新たにスタートした「教育訓練休暇給付金」。
これは労働者が会社を辞めずに無給の休暇を取り、その間に学習や訓練に専念できるよう支援する制度です。休暇中には雇用保険から賃金の一定割合が支給され、生活費の不安を抱えずにリスキリング(学び直し)に挑戦できるという画期的な仕組みです。
特に派遣会社にとって、この制度は「社員のキャリア支援」「人材定着」「派遣先からの信頼獲得」に直結する重要な制度となり得ます。今回は、派遣会社の経営者・人事担当者に向けて、教育訓練休暇給付金の内容やメリット、実務上の注意点を解説していきます。
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### 1. 教育訓練休暇給付金とは?
教育訓練休暇給付金は、雇用保険の給付制度の一つです。労働者が自発的に教育や訓練のための休暇を取得する場合、無給であってもその期間の生活を保障するために、失業給付に準じた額が支給されます。
つまり、仕事を辞めなくても「一時的に仕事を離れて学ぶ」ことができるという点が特徴です。従来は「退職してから学び直す」選択肢が中心でしたが、制度によって「在職しながらキャリアを積み直す」ことが現実的になりました。
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### 2. 制度が始まった背景とリスキリングの重要性
AIやDXの進展により、労働市場は急速に変化しています。これまで必要とされたスキルが数年で不要になる一方、新しいスキルへの需要は高まり続けています。
こうした状況の中で注目されるのが「リスキリング(Reskilling)」です。新しい職務や業務に対応するために、既存の人材が再び学び直すことが企業競争力の鍵になっています。
教育訓練休暇給付金は、こうした社会背景に対応する形で創設されました。労働者が安心してキャリア形成に取り組めるよう支援することで、結果的に企業全体の成長にもつなげる狙いがあります。
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### 3. 対象となる労働者の条件
給付金を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
1. **雇用保険の一般被保険者であること**
(65歳以上の高年齢被保険者や短期雇用特例被保険者は対象外)
2. **休暇開始前の2年間に12か月以上の被保険者期間があること**
※月に11日以上勤務している必要があります。
3. **雇用保険の加入期間が通算5年以上あること**
4. **本人が自発的に教育訓練休暇を取得していること**
(業務命令ではなく、自分の希望での休暇であることが必須)
派遣社員も、派遣元の雇用契約を通じて雇用保険に加入していれば対象となり得ます。
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### 4. 支給額と給付日数の具体例
給付額は、失業給付と同じ計算方法で算定されます。
- 月収35万円の労働者 → 約19.5万円/月が支給
- 給付日数は加入期間によって変動
- 5年以上10年未満:90日
- 10年以上20年未満:120日
- 20年以上:150日
例えば、10年以上勤務している社員が4か月の語学留学に行く場合、最大で約78万円が支給される計算です。
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### 5. 利用できる教育訓練の種類
対象となる教育訓練は非常に幅広く設定されています。
- 学校教育法に基づく大学・大学院・短大・高専・専修学校など
- 教育訓練給付金の指定講座(資格取得講座など)
- 職業安定局長が定める専門的な教育訓練(司法修習、語学留学、海外大学院での修士号取得など)
派遣社員の場合も「資格取得」や「語学研修」といったニーズが多く、現実的に利用しやすい制度と言えます。
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### 6. 手続きの流れと企業側の準備
制度を利用するには、企業側の準備も欠かせません。
1. **就業規則に教育訓練休暇の規定を整備**
→ この規定がなければ申請できません。
2. **労働者が「教育訓練休暇取得確認票」を提出**
→ 事業主が同意した上で進める必要があります。
3. **事業主がハローワークへ書類提出**
→ 賃金月額証明書などを10日以内に提出。
4. **労働者が申請書類を提出**
→ ハローワークで審査を受け、受給資格が決定されます。
派遣会社の場合、派遣先との業務調整や代替要員の手配など、現場の調整力も問われます。
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### 7. 派遣会社にとってのメリットと注意点
教育訓練休暇給付金は、派遣会社にとって大きなメリットがあります。
- 社員のキャリアアップを支援できる
- 定着率が上がり、人材流出を防げる
- 「学びを応援する会社」というブランド強化につながる
一方で注意すべき点もあります。
- 派遣先企業との調整負担
- 業務の一時的な人員不足
- 制度利用に伴う就業規則や申請の煩雑さ
このあたりを事前に整備しておくことで、制度活用がスムーズになります。
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### 8. 派遣社員は対象になる?実務での判断ポイント
派遣社員の場合、雇用契約は派遣元と結んでいるため、給付金の申請も派遣元が対応します。
- **雇用保険に加入していること**
- **派遣元に教育訓練休暇の規定が整備されていること**
これらが満たされていれば、派遣社員も対象です。
ただし派遣先との関係調整は不可欠であり、派遣元として「教育訓練休暇取得を認めるかどうか」の判断は重要になります。
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### 9. 不正受給への注意とコンプライアンス体制
制度利用において最も注意が必要なのが「不正受給」です。
- 実際には教育訓練を受けていないのに申請
- 書類を偽造して給付を受ける
- ハローワークへの虚偽報告
こうした行為は、給付金の返還だけでなく「返還額の2倍の追徴」「詐欺罪に問われる可能性」まであります。派遣会社としては、制度を適正に利用するためのコンプライアンス体制を整えておくことが不可欠です。
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### 10. まとめ:社員の学びを応援することが企業の成長につながる
教育訓練休暇給付金は、単なる給付制度ではなく「人材投資を支える仕組み」です。
派遣会社にとって、社員のリスキリングを応援することは、結果的に企業の競争力を高めることにつながります。
- 社員にとっては安心して学べる環境
- 企業にとってはスキルアップと人材定着の促進
- 派遣先にとっては質の高い人材の供給
三者にとってプラスの循環を生み出す可能性を秘めています。
制度は始まったばかり。派遣会社としていち早く理解し、準備を整えることで「社員の未来」と「会社の成長」を同時に支援できるのではないでしょうか。
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※制度の詳細や適用可否は個別の状況によって異なります。導入を検討される場合は、専門家である社会保険労務士にご相談ください。
お困りの際は、当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
※参照記事)yahooニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/fa4866fb67ca873507a8f59dbb772b34f3183751
※参照)厚生労働省「教育訓練休暇給付金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koyouhoken/kyukakyufukin.html
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講演実績
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【参加者様からのお声】
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研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)