「正社員を確保できない」が41%――派遣・非正規人材の活用が進む理由とは?
2025.11.07
厚生労働省が2024年(令和6年)に公表した「就業形態の多様化に関する総合実態調査」。
この調査結果が、今の日本の“人材戦略の現実”を如実に示しています。
結果の中で最も注目されたのが、
企業が「正社員以外の労働者を活用する理由」として
**「正社員を確保できないため」(41.0%)**
と答えた割合が最も高かったという点です。
この数字は、単なる人材調達の一側面ではなく、
「人手不足の構造化」と「働き方の価値観変化」が同時に進行していることを意味します。
本記事では、社労士の視点からこの調査結果を紐解き、
派遣会社をはじめとする人材ビジネスがどう変わるべきかを考えます。
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## 1. 正社員を確保できない時代の到来
人材確保難は、もはや特定の業界の話ではありません。
製造、物流、介護、サービス、小売など、幅広い分野で「正社員が集まらない」状況が続いています。
その背景にはいくつかの要因があります。
- **人口減少と労働力人口の減少**
少子高齢化が進む中で、働き手そのものが減っている。
特に若年層の採用は競争が激しく、地方企業では深刻です。
- **働く人の価値観の変化**
「仕事中心」から「生活と両立」へ。
正社員としてフルタイムで働くよりも、柔軟な働き方を求める人が増えています。
- **正社員の責任・負担の重さ**
近年、業務の多様化・複雑化により、正社員の仕事量と責任が増大。
結果として、「正社員は避けたい」という層も少なくありません。
こうした中で、企業は「必要な人材を確保するため」に、
派遣・契約社員・パートタイムといった“非正規雇用”を活用せざるを得ない状況になっています。
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## 2. 「非正規活用」はもはや戦略の一部
かつては“正社員=本体、非正規=補助”という構図が一般的でした。
しかし今は、派遣社員や契約社員が事業の中核を担うケースも増えています。
実際、調査結果では「非正規の比率が上昇した」と回答した企業が15.7%に上りました。
中でも「パートタイム労働者」(66.2%)と「嘱託社員(再雇用者)」(22.4%)が目立っています。
つまり企業は、業務内容や繁閑、採用難に応じて“最適な働き方の組み合わせ”を模索しているのです。
この流れは一時的なものではなく、**持続的な経営戦略の一部**として定着しつつあります。
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## 3. 労働者側の選択も変化している
一方で、労働者側の理由も見逃せません。
正社員以外の働き方を選ぶ理由のトップは、
「自分の都合のよい時間に働けるから」(40.1%)でした。
これは、子育て・介護・副業・趣味など、
“働く以外の時間を大切にしたい”という価値観の広がりを示しています。
また、派遣労働者に関しては、
「正社員として働ける会社がなかったから」という回答も依然として多く、
働き方の選択には「自由」と「制約」が同居しています。
このように、
企業は「人がいない」から非正規を活用し、
働く人は「柔軟に働きたい」から非正規を選ぶ。
両者のニーズは交差しているようで、実は微妙にズレています。
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## 4. 派遣会社が果たすべき新たな役割
この“ズレ”を埋めるのが、派遣会社の使命です。
派遣ビジネスは、単なる人材の「供給モデル」から、
企業と働く人の「価値をつなぐモデル」へと進化する必要があります。
派遣先企業の課題は「即戦力」と「安定した人材確保」。
派遣スタッフの課題は「安心して働ける環境」と「キャリア形成」。
この双方を橋渡しできる派遣会社こそ、今後の市場で選ばれていくでしょう。
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## 5. 「即戦力」から「成長力」へ
従来、企業が派遣に求めていたのは即戦力。
しかし長期的に見ると、それだけでは持続性がありません。
派遣スタッフが定着し、スキルを高めていくことで、
結果的に企業の生産性が上がり、派遣会社の信頼も向上します。
そのためには、次のような取り組みが欠かせません。
- **リスキリング・スキルアップ支援の仕組み化**
- **派遣スタッフのキャリアカウンセリング制度の導入**
- **「派遣→直接雇用」への道筋の設計**
これらを通じて、派遣スタッフに“成長の手応え”を感じてもらうことが大切です。
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## 6. 「派遣→直接雇用」の流れが生まれる背景
調査では「正社員を確保できない」が41%という結果でしたが、
これは裏を返せば、「派遣社員が正社員になるチャンスが増える」ということでもあります。
企業側にとっては、派遣社員を通じて人柄・スキルを見極めたうえで採用できる。
派遣スタッフにとっては、派遣期間中に自分の実力を示せる。
この「双方にとってリスクの少ない採用ルート」は、
今後ますます一般化していくでしょう。
派遣会社としても、
この流れを後押しできる仕組みを整えておくことが、
大きな信頼につながります。
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## 7. 「柔軟な働き方」を支える仕組みが鍵
企業が人材を確保する上で、
今や“柔軟な働き方”を提供できるかどうかが大きな差別化要因です。
例えば――
・週3日勤務や時短勤務の提案
・副業人材やリモート派遣の導入
・短期プロジェクト派遣の制度化
こうした柔軟な働き方の設計を、
派遣会社が企業と一緒に考えることが、これからのスタンダードになります。
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## 8. 派遣スタッフの「満足度」を上げるには
厚労省の調査では、
正社員が最も満足している項目は「雇用の安定性」(66.3ポイント)。
一方、非正規では「仕事の内容・やりがい」(63.3ポイント)がトップでした。
つまり、非正規の方は“仕事そのもの”には満足しているが、
“安定性”には不安を抱えているという構図です。
派遣会社がここをどう補うか。
・定期的なフォローアップ
・派遣期間終了前の次の仕事の確保
・相談体制の充実
これらの支援が、「この派遣会社で働き続けたい」という信頼につながります。
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## 9. 社労士として見た法的・制度的ポイント
派遣・非正規活用が進む中で、法的リスクにも注意が必要です。
特に以下の点は要チェックです。
- **派遣法に基づく期間制限(原則3年)**
- **派遣先での直接雇用申し込み義務**
- **同一労働同一賃金への対応**
これらの法令遵守が不十分だと、
企業も派遣会社もトラブルリスクを抱えることになります。
社労士としては、
制度運用の整備や契約書の適正化、
労働者への説明責任をしっかり果たすサポートが重要です。
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## 10. まとめ:「人を送る」から「雇用をデザインする」へ
今回の調査結果が示すのは、
日本の雇用が“多様性を前提とした構造”に変わりつつあるということ。
企業は「正社員不足」に悩み、
働く人は「柔軟な働き方」を求める。
その間に立つ派遣会社は、
単なる人材供給業から「雇用をデザインするパートナー」へと進化する時代を迎えています。
今後の派遣会社には、
・人材育成に投資できる力
・企業課題を共に解決する発想
・労務管理の正確性と信頼性
この3つが欠かせません。
社労士として現場を見ていると、
派遣会社が果たす社会的役割は年々大きくなっています。
「人を送る」から「人を育て、つなぎ、活かす」へ。
人手不足の時代こそ、
派遣会社が“雇用のハブ”として輝くチャンスです。
当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
【参照リンク】
厚生労働省「令和6年就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keitai/24/index.html
―――――――――――――――――――――――――
執筆:社会保険労務士 泉文美(派遣業・労務リスクマネジメント専門)
#人材派遣 #人手不足 #就業形態多様化 #社労士コラム #リスキリング #雇用戦略 #働き方改革 #人材育成
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講演実績
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一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
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- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
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研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)


