知らないと損する通勤手当の非課税枠改正。派遣会社が押さえるべき10の視点
2025.11.17
※本記事は派遣会社(経営者・管理者・人事労務担当者)向けに、2025年秋に見込まれる「マイカー通勤手当の非課税枠引き上げ」を、実務視点で徹底解説しています。
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## 1. マイカー通勤手当の非課税枠とは?【基礎知識】
まずは基本の整理から始めます。
「通勤手当」とは、従業員が通勤のために必要となる費用を補う目的で会社が支給する手当です。
所得税法では、一定額までは“課税されないお金”として扱われています。これがいわゆる「非課税枠」。
特にマイカー通勤については、国税庁が「片道距離」に応じて非課税限度額を細かく定めており、
たとえば4〜6kmであれば〇〇円、10〜15kmなら〇〇円…といった具合です。
この非課税枠を超えて支給した分は給与として課税されるため、スタッフの手取りや会社の源泉徴収額にも影響します。
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## 2. なぜ2025年に「非課税枠引き上げ」が話題になっているのか
2025年2月、政府が「2025年秋にもマイカー通勤手当の非課税枠を引き上げる方向で検討」という報道がありました。
背景には、ガソリン代や自動車維持費の高騰など、通勤コストの上昇があります。
そして同年8月、人事院が公務員の給与勧告において「通勤手当の非課税枠引き上げ」を提案。
まだ最終決定ではありませんが、改正が現実味を帯びてきました。
派遣スタッフの多くがマイカー通勤である地域では、特に注目すべき動きと言えます。
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## 3. 現行の通勤手当の非課税限度額【距離区分と基準】
現行制度では、片道距離に応じて非課税枠が設定されています。
たとえば、
・4kmの場合:4,200円
・10kmの場合:6,500円
・15kmの場合:11,300円
といった具合です(※詳細は国税庁の基準に準拠)。
地方の派遣会社の場合、10〜20kmという距離帯のスタッフが非常に多いため、この区分の改正が実務に直結します。
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## 4. 非課税枠が引き上げられた場合の具体的な変更点
人事院勧告では、片道10km以上の区分について非課税枠が200〜7,100円引き上げられる見込みとされています。
例:片道15km
現行 → 11,300円
改正後 → 17,000円(想定)
これはかなり大きな上昇幅です。
特に遠距離通勤者にとっては、手取りへ直接響く改正となります。
一方、10km未満については現状維持が想定されています。
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## 5. 手取り収入はどう増える?【非課税枠アップの影響】
非課税枠が広がると、手取りが増える理由は主に2つ。
1. **所得税・住民税が減る**
非課税枠を超える分だけ課税されていたスタッフは、課税額が減るため手取りが増えます。
2. **支給額そのものが増える可能性**
会社によっては「非課税枠まで支給する」というルールになっており、枠が広がる=支給額が増えるケースがあります。
ただし、支給額が増える場合、給与収入が増えるため社会保険料が増える可能性もあります。
「手取りが増える=一律に良い」とは限らない点には注意が必要です。
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## 6. 派遣会社にとって実務上のインパクト
派遣会社が最も注意すべきポイントは、次の4つです。
● **支給ルール(就業規則・契約書)の見直し**
「非課税枠まで支給」と明記しているかどうかで運用が変わります。
● **派遣先との調整**
派遣料金に通勤手当を含めるのか、別途支給なのかで対応が異なります。
● **給与計算システムの対応**
距離区分が変更されれば、計算式やマスター設定の変更が必要です。
● **スタッフへの説明責任**
「なぜ増えるのか」「自分はいくら変わるのか」といった問い合わせが必ず増えます。
制度変更は“現場混乱”が起きやすく、ここでの対応力が派遣会社の評価に直結します。
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## 7. 支給額を増やす義務はあるのか?【誤解の多いポイント】
スタッフからよく聞かれる質問が、
「非課税枠が上がるなら、通勤手当も上がりますよね?」
というもの。
結論としては、 **非課税枠が上がっても、支給額を増やす義務はありません。**
あくまで、非課税枠は「税金をかけない限度額」であり、「企業が支給すべき金額」ではないからです。
増額が必要かどうかは、
・就業規則
・派遣先の支給ルール
・派遣契約の条件
によって決まります。
勘違いが起こりやすい領域なので、早めに説明文を準備しておくのがおすすめです。
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## 8. 年末調整で必要となる手続きと注意点
国税庁はすでに「改正が行われる場合は年末調整に影響する可能性がある」と発信しています。
具体的には、
● 年末調整ソフトのアップデート
● 非課税限度額の判定基準の変更
● 支給履歴の整理
● 給与支払報告書の数字調整
などが発生する可能性があります。
特に派遣会社ではスタッフ人数が多く、勤務形態も多様なため、年末調整の負荷は大きいのが実情。
直前対応にならないよう、早めに下準備しておくことが重要です。
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## 9. 派遣スタッフ・派遣先への説明はどう行うべきか
制度改正は、情報を正しく伝えられるかどうかでトラブルが大きく変わります。
● スタッフ向け
「非課税枠が変わる」「支給額が変わるとは限らない」「手取りにどう響くか」
など、誤解を防ぐための事前告知が有効です。
● 派遣先向け
「通勤手当の扱いをどうするか」「派遣料金へ影響するのか」などを整理し、
必要な場合は契約更新時に確認しておくことが重要です。
“言った・言わない問題”を防ぐためにも、文書での案内を推奨します。
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## 10. 最後に:制度変更は“信頼構築のチャンス”
制度変更は、どうしても「対応が大変」「また業務が増える」という印象を持たれがちです。
しかし、私はむしろ逆に、派遣会社が“価値を示すチャンス”だと考えています。
・スタッフにとって安心できる説明
・派遣先にとって頼りになる情報提供
・内部の運用を整えることで業務の透明性が向上
こうした積み重ねが、派遣会社の信用を確実に高めていきます。
実務対応で迷うことがあれば、当ホームページのお問合せ・相談フォームから、どうぞ気軽にご相談ください。
初回のご相談は無料です。
制度を正しく理解し、派遣現場が安心して働ける環境づくりを一緒に進めていきましょう。
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【参照記事】
https://news.yahoo.co.jp/articles/0795c6794c762d2d9b85f7e99403921791ec526e?page=2
【参照】
国税庁 「No.2585 マイカー・自転車通勤者の通勤手当」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2585.htm
人事院 「報告文・勧告文」
https://www.jinji.go.jp/seisaku/kankoku/archive/r7/r7_top.html
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セミナー開催実績例
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「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
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当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。
講演実績
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市川港開発協議会様 主催 研修
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今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」
【参加者様からのお声】
- 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
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- 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
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一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
- 株式会社LEC 様 主催
「介護雇用管理研修」業務委託登録講師 - 株式会社フィールドプランニング 様 主催
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安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ
研修について
当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)


