派遣会社が対応必須!10月施行「育児・介護休業法改正」のポイントと実務対応
2025.09.19
2024年10月1日から、改正育児・介護休業法の新しいルールが施行されました。
今回の改正で特に重要なのは、**「育児期における柔軟な働き方制度の義務化」**と**「個別の意向聴取・配慮の義務化」**です。
この制度はすべての企業が対象となっており、当然ながら派遣会社や派遣スタッフも例外ではありません。
むしろ、派遣という働き方の特性上、派遣会社には特別な配慮と準備が求められる場面が多くなります。
本記事では、改正の背景から新たな義務の具体的内容、そして派遣会社が直面する課題と実務対応までを詳しく解説していきます。
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## 1. 改正の背景:なぜ育児・介護休業法が見直されたのか
少子化が深刻化する一方で、共働き世帯の割合は増加の一途をたどっています。
厚生労働省の調査によれば、共働き世帯は専業主婦世帯の2倍以上。特に子育て世代では「働きながら子育てする」ことが当たり前になっています。
しかし現実には、育児と仕事の両立は依然として難しく、多くの労働者が離職やキャリア中断を余儀なくされています。
企業にとっても優秀な人材の流出は大きな損失です。
こうした背景から、「仕事と育児を両立しやすい環境をつくる」ことが社会的に急務となり、今回の法改正につながりました。
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## 2. 10月から義務化される「柔軟な働き方措置」とは
今回の改正では、**3歳から小学校就学前までの子を育てる労働者**に対して、以下5つの制度のうち「2つ以上」を整備することが企業に義務付けられました。
1. **始業・終業時刻の変更(時差出勤など)**
所定労働時間を変えずに、始業や終業を前後にずらす制度。フレックスタイム制も含まれます。
2. **テレワーク(月10日以上)**
在宅勤務やリモートワークを、1日の労働時間を維持したまま月10日以上利用できる制度。
3. **保育施設やベビーシッターの提供**
自社で保育施設を設置するか、外部のベビーシッター費用を負担するなど、子育て支援の便宜を供与。
4. **養育両立支援休暇(年10日以上)**
年に10日以上取得できる特別休暇。病気や行事対応など柔軟に活用できます。
5. **短時間勤務制度**
所定労働時間を1日6時間とする制度など、勤務時間を短縮する仕組み。
この中から事業主は2つ以上を整備し、労働者は1つを選んで利用できます。
つまり、企業は「選択肢を用意すること」が必須であり、労働者は「遠慮せずに権利として利用できる」時代に変わったのです。
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## 3. 3歳未満の子を持つ労働者への「個別周知・意向確認」義務
さらに重要なのが、**3歳未満の子を育てる労働者**への対応です。
企業は、育児制度や時間外労働の制限などについて「個別に周知」し、労働者本人の「利用意向を確認」することが義務付けられました。
ポイントは次の通りです。
- 周知方法は面談・書面・FAX・メールでも可能。
- 「利用を控えた方がいい」といった誘導は違法行為。
- 育児休業からの復帰時や制度利用中に面談を行うことが望ましい。
つまり、企業が「聞かれるまで待つ」のではなく、積極的に制度を提示し、利用をサポートする姿勢が求められるのです。
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## 4. 派遣会社特有の課題:派遣元と派遣先の役割分担
派遣スタッフの場合、労働契約を結ぶのは派遣元ですが、実際に勤務するのは派遣先です。
この二重構造により、次のような課題が生じます。
- 制度整備は派遣元で行うべきか、派遣先と連携すべきか。
- スタッフへの意向確認は誰が行い、どのタイミングで記録するのか。
- 派遣先に制度がない場合、どう補うのか。
派遣元が制度を持たないままでは法令違反になる可能性が高く、また派遣先とのトラブルにもつながります。
したがって、**派遣元が主体的に制度を整え、派遣先と調整を図る**ことが重要です。
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## 5. スタッフへの説明と相談体制の整備
法改正を形だけで済ませてしまうと、スタッフは制度を使いにくく、結局は離職につながります。
派遣会社としては次のような取り組みが求められます。
- **制度案内の分かりやすい資料作成**
- **相談窓口の明確化**(メール・電話・オンライン面談など)
- **スタッフが申出しやすい雰囲気づくり**
特に派遣スタッフは、派遣先に気を使って「制度を申請しづらい」状況になりがちです。
派遣元が積極的にサポートしなければ、せっかくの制度が絵に描いた餅になってしまいます。
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## 6. 厚労省が推奨する「定期的な意向聴取」の活用
厚生労働省は「制度利用中や復職時などに定期的な面談を行うことが望ましい」としています。
これは単なる義務以上に、派遣会社にとっては大きなメリットがあります。
- スタッフの状況を把握できる
- 離職リスクを早期に察知できる
- 信頼関係を築ける
つまり「制度対応」以上に、「人材定着の仕組み」として活用できるのです。
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## 7. 人材定着・採用へのプラス効果
育児支援制度をしっかり運用している派遣会社は、求職者にとって魅力的に映ります。
- 「安心して長く働ける会社」というブランド価値
- 育児世代を含む幅広い人材の採用力向上
- 他社との差別化
制度対応はコストではなく、**人材確保の投資**と考えることが重要です。
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## 8. 対応を後回しにするリスク
一方で、対応を怠ると次のようなリスクが発生します。
- 行政からの指導や勧告
- スタッフや派遣先からの苦情・トラブル
- 優秀な人材の離職
特に派遣業界では「安心して働ける環境があるかどうか」が定着率に直結します。
法対応を軽視することは、事業そのものの信頼を揺るがしかねません。
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## 9. 実務対応のステップ
派遣会社としては、次のステップで対応を進めることが現実的です。
1. 社内規程・就業規則の改定
2. 育児支援制度の整備(2つ以上選択)
3. スタッフへの周知方法の設計
4. 意向聴取フローの構築(記録・保存含む)
5. 派遣先企業への情報共有と協力体制の構築
6. 定期的なモニタリング・改善
この一連の流れを「プロジェクト」として管理することで、対応漏れを防げます。
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## 10. まとめ:義務をチャンスに変える経営判断を
今回の法改正は、派遣会社にとって「新しい義務」ではありますが、同時に「信頼を得るチャンス」でもあります。
制度を整え、スタッフに安心して働いてもらえる環境を提供すること。
それは単なる法令順守を超えて、**人材定着と採用力の向上につながる経営戦略**です。
「どの制度を選ぶべきか分からない」「派遣先との調整が難しい」など、現場ではさまざまな課題が出てくるでしょう。
そうした時は、専門家である社会保険労務士にご相談いただければ、派遣業界の特性に合わせた実務的な対応をサポートできます。
義務を負担と捉えるのではなく、チャンスと捉える。
この発想の転換こそが、これからの派遣会社経営における最大のポイントになるはずです。
当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
※記事リンク)
https://news.yahoo.co.jp/articles/77b2167d90468ddf080274170d24747608a7db5a
※参照リンク)厚生労働省「育児・介護休業法について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html
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セミナー開催実績例
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- 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
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「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
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講演実績
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「マイナンバー通知開始!
今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」
【参加者様からのお声】
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- 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
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一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
- 株式会社LEC 様 主催
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泉文美 講師紹介ページ
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当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)