未払い賃金で監督指導急増!派遣会社が見直すべき労使協定と労務管理
2025.09.17
## 1. 令和6年、賃金不払の監督指導が過去最多水準に
厚生労働省が公表した「令和6年 賃金不払に関する監督指導結果」によると、2024年に労働基準監督署が取り扱った賃金不払の事案は **22,354件** にのぼりました。
前年より **1,005件増** と大幅な増加です。対象労働者は **185,197人**、未払い総額は **172億1,113万円** に達しています。
さらに注目すべきは、そのうち **約96%が支払い指導によって解決された** という点。つまり「払っていなかった」という事実が確認され、使用者側が是正したことを意味します。
これは「未払い賃金のリスクはどの企業にも現実に存在する」ということを示しています。
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## 2. 未払い賃金が発生する典型的な背景
賃金不払と聞くと「悪質な企業だけの問題」と思われがちです。ですが、実際には **計算方法の誤りや認識のずれ** が大半の原因を占めます。
例えば、
- 労働時間の端数処理が曖昧になっていた
- 割増賃金(残業・深夜・休日)の計算式を誤っていた
- 就業規則や労使協定の内容と実際の支給額に差があった
こうした“小さなズレ”が積み重なり、結果的に「未払い」と判断されます。
派遣会社は複数の派遣先で就労する労働者を抱えるため、労働時間管理や賃金計算の煩雑さが増し、他業種よりもリスクが高いと言えるでしょう。
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## 3. 派遣会社に特有のリスクポイント
監督指導において、派遣会社が指摘を受けやすいのは以下の点です。
### (1) 労使協定方式の誤解
派遣会社は「同一労働同一賃金」の観点から、派遣労働者の賃金を **労使協定方式** で決めることが認められています。
しかし、労使協定で定めた水準より低い賃金を支給した場合、即「未払い」と判断されます。
「ほぼ同じ金額だから大丈夫」という感覚は通用しません。1円でも不足すれば不払扱いです。
### (2) 労働時間の把握不足
派遣先のシステムに依存し、派遣元での確認が甘くなるケースがあります。打刻忘れや休憩時間の扱いなど、わずかな齟齬でも労働基準監督署は厳しくチェックします。
### (3) 割増賃金の誤計算
残業手当や深夜割増を「固定残業代」として包括している場合でも、法定通りの計算になっていないと指摘されます。派遣先が支払う料金と派遣元の計算が一致していないケースも少なくありません。
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## 4. 「賃金の消滅時効3年」の重さ
賃金請求権の消滅時効は当面の間「3年」とされています。
つまり、監督署の調査で未払いが発覚した場合、**過去3年分** をまとめて支払う必要があります。
例えば、月額1万円の未払いがあったとします。
3年間・10人分となれば、総額360万円。
割増賃金や延滞金が加われば、さらに大きな負担となります。
派遣会社にとっては、この金額は決して小さくありません。事業継続そのものに影響するリスクです。
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## 5. 派遣会社が今すぐ点検すべき労務管理
では、具体的に何を確認すべきでしょうか。ポイントは次の3つです。
1️⃣ **労使協定の内容と実際の支給額の突合**
職種の選定や協定賃金が正しく反映されているかを定期的に確認する。
2️⃣ **労働時間の管理フローを二重チェック**
派遣先からの勤怠データと、派遣元の記録を照合し、差異があれば即修正する。
3️⃣ **割増賃金計算式の棚卸し**
システム任せにせず、法定基準と照らし合わせて正しく算出できているかを確認する。
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## 6. 未払い賃金を防ぐための実務改善
ここからは、実際に派遣会社で導入されている改善策をいくつか紹介します。
- **チェックリストの作成**
労使協定締結から賃金支給までの流れを可視化し、担当者が確認できる体制を整える。
- **給与システムの定期メンテナンス**
計算ロジックが最新の法令に対応しているか、外部の専門家に確認してもらう。
- **管理者研修の実施**
現場の担当者が「割増の基準」「休憩のカウント方法」を理解していなければ、システムだけでは不十分。
こうした小さな積み重ねが、数百万円規模のトラブルを防ぎます。
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## 7. 監督署が注視する視点
監督署の調査は「意図的に不払をしたかどうか」ではなく、「法令に沿って支払われているかどうか」に焦点を当てています。
つまり、「悪気はなかった」は理由になりません。
形式上の書類、実際の計算、労使協定の内容が一致しているかが問われます。
派遣会社は特に「労使協定方式の理解度」が差を生むポイント。監督署も重点的にチェックする傾向にあります。
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## 8. 経営に直結するリスクとして捉える
未払い賃金が発生すると、単に「お金を支払えば済む」問題ではありません。
- 労働者との信頼関係の喪失
- 派遣先からの信用低下
- 行政指導による reputational damage(評判リスク)
これらは経営に直接響きます。特に派遣ビジネスは「人材と信頼」が資産です。
一度失った信頼を取り戻すには、時間もコストもかかります。
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## 9. 社労士として見てきた現場の声
私自身、これまで多くの派遣会社から労務相談を受けてきました。
その中で実感するのは「問題が表面化する前に相談してくれていれば防げたのに」というケースの多さです。
例えば、
- 協定書の文言を微調整するだけでリスクを下げられた
- 勤怠システムの設定を直すだけで誤計算が解消できた
- 年1回の棚卸しで重大トラブルを回避できた
こうした事例は少なくありません。
「ちょっとした点検」が将来の大きな損失を防ぎます。
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## 10. まとめ:今こそ「労務管理の再点検」を
令和6年の監督指導結果は、派遣会社にとって「他人事ではない」ことを強く示しました。
- 未払い賃金の監督指導は増加傾向
- 協定のわずかな誤差も「不払」と判断される
- 消滅時効は3年分、経営に直結する金額リスク
これらを踏まえれば、いま取り組むべきは **労使協定・労働時間管理・割増計算の徹底点検** です。
「うちの会社は大丈夫かな?」と少しでも思われたら、ぜひ社内で確認を進めてみてください。
信頼を守るための労務管理は、コストではなく投資です。
当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
※参考リンク)
厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)を公表します」
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などなど、多くのお客様に喜ばれております。
セミナーについて
当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。
セミナー開催実績例
- 介護事業者様向け「改正介護保険法セミナー」
- 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
- 新規採用をお考えの事業者様向け
「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
講演について
当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。
講演実績
日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修
「マイナンバー通知開始!
今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」
【参加者様からのお声】
- 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
- 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
- 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
- マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。
一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
- 株式会社LEC 様 主催
「介護雇用管理研修」業務委託登録講師 - 株式会社フィールドプランニング 様 主催
「派遣元・派遣先責任者講習」業務委託主任講師 - 神奈川韓国商工会議所様 主催
経営者セミナー「お役立ち助成金講座
(雇用の確保と5年ルールへの対応策)」 - 日本経営開発協会様 御紹介
株式会社根布工業様 主催
安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ
研修について
当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)