トラブル防止!派遣社員の雇用契約書と就業条件明示書の違いをわかりやすく整理
2025.11.28
派遣社員として働く際、多くの方が最初につまずきやすいのが「雇用契約書」と「就業条件明示書」の違いです。
どちらも重要な書類でありながら、その役割や内容がしっかり理解されないまま就業がスタートしてしまうケースは少なくありません。
そしてこの理解不足こそが、後々の労働条件トラブルにつながりやすいポイントです。
私は社会保険労務士として、派遣会社・派遣社員の双方から相談を受ける機会がありますが、書面の認識違いに起因するトラブルは少なくありません。
この記事では、派遣社員・派遣会社双方が安心して契約を進められるよう、2つの書類の違いを徹底的に整理し、実務上の注意点まで分かりやすく解説します。
派遣会社の担当者の方にも参考にしていただける内容になっています。
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## ■1. 「雇用契約書」と「就業条件明示書」の基本的な違い
まず大前提として、両者は「目的」も「法律上の位置づけ」も異なります。
**●雇用契約書:派遣会社と派遣社員の間で結ぶ“雇用関係”の契約書**
**●就業条件明示書:派遣先で働く際の“具体的な労働条件”を明示する書類**
この違いが理解できていないと、
「なぜ書類が2つあるの?」
「どちらが優先されるの?」
といった疑問につながり、後にトラブルを生み出します。
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## ■2. 雇用契約書は“派遣会社と労働者”の関係を規定するもの
雇用契約書は、労働基準法・労働契約法に基づき作成される書面で、法的には「雇用関係を成立させる契約書」という位置づけです。
雇用主は派遣会社であり、派遣社員はその従業員になります。
派遣先企業とは雇用関係はありません。
記載内容としては、比較的“恒常的な条件”が並びます。たとえば:
- 雇用期間
- 給与の支払い方法
- 昇給・賞与の有無
- 就業場所の変更可能性
- 退職の規定
- 休日・休暇
- 社会保険の扱い
これらは派遣先が変わっても基本的には変わらない内容です。
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## ■3. 就業条件明示書は“派遣先で働く条件”を具体的に示す書類
一方、就業条件明示書は労働者派遣法で交付が義務づけられています。
こちらに記載されるのは、あくまで**派遣先ごとに異なる勤務条件**です。
派遣先が変わるたびに新しい書類が必要になります。
主な記載項目は次の通りです:
- 派遣先名
- 業務内容
- 勤務時間・休憩・残業の有無
- 派遣料金と賃金の関係
- 有給取得の取り扱い
- 派遣先での福利厚生(食堂利用など)
雇用契約書と違い、“毎回変わる情報”がまとめられたものだと理解しておく必要があります。
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## ■4. なぜ2つの書類が必要なのか
「記載内容が似ているのに、なぜ2つ必要なのか?」
派遣社員から最もよく受ける質問です。
理由は以下の通りです。
- 雇用契約書はあくまで「派遣会社の従業員として働く契約」
- 就業条件明示書は「派遣先で働くための取り決め」
そして法律としても根拠が異なるため、一方で全てをカバーすることができません。
そのため「二重構造」になっているわけです。
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## ■5. よくある誤解とその危険性
現場で非常に多いのが以下の誤解です。
### ●誤解①「就業条件明示書の内容=雇用契約書の内容」
これは大きなトラブルの元です。
派遣先での勤務条件は就業条件明示書に書かれますが、
**給与の締め日・支払日、社会保険、各種手当などは雇用契約書が基準になります。**
両者が矛盾している場合、優先順位が分からなくなりトラブルにつながります。
### ●誤解②「派遣先と直接契約している」
こちらも非常に多い誤解です。
あくまで雇用主は派遣会社ですので、
- 労働条件の説明
- トラブル時の相談窓口
- 就業中の指揮命令のルール
などの責任は派遣会社側にあります。
これを勘違いしたまま派遣先とやりとりを進めると、不要な摩擦が起きやすくなります。
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## ■6. 書類の不一致による典型的なトラブル例
私の実務経験でも、以下のような相談が多く寄せられます。
- 時給が雇用契約書と就業条件明示書で違う
- 交通費の支給方法が派遣会社と派遣先の説明で食い違う
- 時間外手当の扱いが派遣先と話した内容と異なる
- 更新時に条件変更があったのに書面が作成されていない
特に多いのは「口頭説明のみ」で進んでしまったケースです。
労働条件は書面の内容が法的に優先されますので、口頭説明との齟齬は大きなトラブルになります。
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## ■7. 派遣社員が必ず確認すべき4つのポイント
以下は必ずチェックしていただきたい項目です。
1. **雇用契約書と就業条件明示書の記載に矛盾がないか**
2. **派遣先が変わるたびに就業条件明示書が更新されているか**
3. **時給・交通費・残業代の扱いが双方で整合しているか**
4. **更新時の条件変更が書面で明確に示されているか**
どれも基本的なことですが、現場では意外と見落とされやすい内容です。
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## ■8. 派遣会社が気をつけるべき実務ポイント
派遣会社側にも改善できるポイントがあります。
- 説明の際に「どこに何が書いてあるか」を明確に伝える
- 雇用契約書と就業条件明示書の内容をダブルチェックする
- 更新時は必ず書面をセットで確認してもらう
- 記載ゆれを防ぐため、フォーマットを統一する
書類の整備が不十分な派遣会社ほど、後々トラブルが発生しやすい傾向があります。
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## ■9. 社労士が提供できるサポート内容
社会保険労務士としては、以下のようなサポートが可能です:
- 雇用契約書・就業条件明示書の整備
- 記載内容が法律に適合しているかのチェック
- 派遣社員からの相談対応
- 派遣会社の労務管理体制の改善
- トラブル発生時の第三者としての調整
実際、派遣会社の書類作成をサポートし、トラブル件数が大幅に減った例もあります。
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## ■10. まとめ:2つの書類の役割を正しく理解することがトラブル防止の第一歩
雇用契約書は「派遣会社との契約」。
就業条件明示書は「派遣先での労働条件」。
この区別を明確に理解し、記載内容を丁寧に確認することで、多くのトラブルは事前に防ぐことができます。
疑問がある場合は、派遣会社の担当者だけでなく、社会保険労務士などの専門家に早めに相談することも大切です。
正確な知識を持ち、安心して働ける環境を整えていきましょう。
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当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。
セミナー開催実績例
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- 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
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「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
講演について
当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。
講演実績
日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修
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今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」
【参加者様からのお声】
- 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
- 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
- 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
- マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。
一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
- 株式会社LEC 様 主催
「介護雇用管理研修」業務委託登録講師 - 株式会社フィールドプランニング 様 主催
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株式会社根布工業様 主催
安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ
研修について
当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)


