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NEW 「派遣だから関係ない」は通用しない?医療・福祉派遣のメンタルリスク最前線   2025.11.05

### はじめに:医療・福祉業界で今、何が起きているのか 

 

「医療・福祉業界で働く人の精神障害による労災認定が、過去最高に達した」 

厚生労働省が公表した「令和7年度版 過労死等防止対策白書」は、この事実を明らかにしました。 

 

2024年の精神障害に関する労災保険給付請求件数は**969件**。 

前年比で12%増、2020年と比べると**約2倍**という急増ぶりです。 

 

数字だけを見ると驚きますが、現場を知る方なら「やはり」という印象を持たれたかもしれません。 

コロナ禍以降、医療や介護の現場は慢性的な人手不足に加え、感情労働・夜勤・感染リスクといった複合的なストレスを抱えています。 

 

さらに2023年以降は、いわゆる「ポストコロナ期」の回復過程で、 

職員の離職や新人育成の遅れ、残業増加などが重なり、精神的負担が増しているのが現状です。 

 

こうした状況のなかで、労災認定が増えるのは必然とも言えます。 

しかし、ここで見落としてはいけないのは、**「派遣スタッフ」もこの渦中にいる**という事実です。 

 

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### 「派遣だから関係ない」は、もはや通用しない時代 

 

かつては、派遣スタッフの労務管理に関して、派遣元と派遣先の責任分界が比較的明確でした。 

派遣先が日常の指揮命令を行い、派遣元は契約上の労働条件を守る。 

 

しかし今、医療・福祉分野での精神障害やメンタル不調については、 

**「派遣元にも安全配慮義務がある」**という視点が強まっています。 

 

たとえば、次のようなケースがあります。

 

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#### 【事例1】派遣先でのパワハラを見逃したケース 

 

看護助手として派遣されたスタッフが、派遣先のリーダー看護師から繰り返し叱責を受けていた。 

派遣元は月1回の勤務報告を受け取っていたが、本人が「問題ありません」と回答したため、特に対応を取らなかった。 

その後、スタッフは体調不良で退職し、労災申請を行う。 

 

結果、派遣先の行為が直接原因であると同時に、**派遣元の監督不足**も問われることになった。 

 

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#### 【事例2】勤務時間・夜勤回数の把握が不十分だったケース 

 

介護施設に派遣された職員が、シフト変更を繰り返され、実際には月に10回以上の夜勤を担当。 

派遣元は派遣先からの勤怠データを「月末一括」でしか確認しておらず、実態を把握できていなかった。 

結果、心身の不調を訴えた職員が長期休職。 

 

「派遣元は労働時間の把握を怠った」として、労基署から是正指導を受けた。 

 

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このような事例は、決して珍しくありません。 

派遣先で起きたことでも、「派遣元がどこまで把握し、どのように対応したか」が問われる時代なのです。 

 

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### 医療・福祉派遣に潜む“見えないリスク”とは 

 

医療・福祉の職場は、他の業界と比べてメンタルリスクが高い傾向があります。 

その理由は、仕事の特性そのものにあります。 

 

1️⃣ **感情労働の多さ** 

患者や利用者、家族との関わりで強い感情を日常的に受け止める必要がある。 

「ありがとう」と言われる一方で、「なぜ助けられなかったのか」と責められることもある。 

 

2️⃣ **悲惨な出来事の目撃や体験** 

医療・介護の現場では、死亡や事故に日常的に直面します。 

白書によれば、「悲惨な事故・災害の体験・目撃」が精神障害の発症要因として突出しています。 

 

3️⃣ **チームワークの摩擦と人間関係トラブル** 

多職種が協働する現場では、意見の違い、責任の押し付け合いなどが起きやすい。 

小さな不満が積み重なり、いじめやハラスメントに発展することもあります。 

 

これらの要因が絡み合うため、精神的な不調は“突然”ではなく、“じわじわ”と進行する傾向にあります。 

 

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### 派遣元が取るべき3つの実践的対策 

 

医療・福祉分野への派遣でリスクを最小限に抑えるためには、 

「派遣先まかせ」にせず、派遣元が**積極的に関与する仕組み**を持つことが不可欠です。 

 

以下に、現場で有効とされる3つの実践策を紹介します。 

 

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#### 1. 定期モニタリングと職場ヒアリングの実施 

 

月1回の「勤務報告」だけでは、現場の空気感や人間関係の変化をつかむことはできません。 

実際に現場訪問し、派遣スタッフ本人・派遣先の担当者双方と話をすることで、 

“見えないストレス”の芽を早期に把握できます。 

 

特に以下の質問が有効です。 

- 最近、仕事の負担が増えていませんか? 

- 職場で気になることや困っていることはありますか? 

- 夜勤や残業のペースはどうですか? 

 

「問題が起きていないか」ではなく、**“変化”が起きていないか**を聞くのがポイントです。 

 

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#### 2. メンタルチェック制度と相談窓口の設置 

 

医療・福祉派遣では、メンタル不調を“本人が隠す”ケースが多いのが実情です。 

そのため、派遣元としては「相談のハードルを下げる」工夫が欠かせません。 

 

たとえば、 

- 匿名で回答できるメンタルチェック(Webフォーム等) 

- 女性スタッフ専用の相談窓口 

- LINEなどで気軽に相談できるチャット対応 

 

などを取り入れることで、早期発見につながります。 

 

「話しやすさ」こそが、最も効果的な予防策です。 

 

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#### 3. 勤怠データのリアルタイム把握 

 

勤務時間や夜勤の回数が把握できていないと、 

派遣元が気づかないうちに「過重労働」が進行してしまいます。 

 

今はクラウド型の勤怠システムを導入すれば、 

派遣先での打刻データをリアルタイムで確認することも可能です。 

 

また、異常値(残業60時間超、夜勤10回超など)が出た際に 

自動通知する仕組みを設定しておけば、リスク検知の精度が大幅に上がります。 

 

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### 社会保険労務士の視点:現場に必要なのは「制度」より「対話」 

 

現場を見ていて強く感じるのは、 

“制度の整備だけでは人は守れない”ということです。 

 

人は、ストレスを感じた時にすぐSOSを出せるわけではありません。 

むしろ、「迷惑をかけたくない」「もう少し頑張ろう」と我慢してしまう。 

 

だからこそ、派遣元が「定期的に声をかける文化」を作ることが重要です。 

 

これは時間もコストもかかります。 

しかし、1人の離職やトラブル対応にかかる労力を考えれば、 

“声かけの積み重ね”が最も費用対効果の高い対策になります。 

 

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### 「人を派遣する」ことは「人の心を預かる」こと 

 

派遣というビジネスモデルは、労働力の提供にとどまりません。 

そこには、働く人の“人生の一部”を預かるという重みがあります。 

 

医療・福祉の現場では、派遣スタッフが「チームの一員」として扱われないことが 

孤立感や不信感の引き金になることもあります。 

 

派遣元ができるのは、その“孤立”を防ぐこと。 

職場に橋をかけ、安心して働ける関係をつくることです。 

 

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### まとめ:これからの派遣元に求められる姿勢 

 

医療・福祉分野で精神障害の労災が急増している今、 

派遣会社には「安全配慮の見直し」が強く求められています。 

 

最後に、今後の方向性を3点に整理します。 

 

1️⃣ **「派遣だから関係ない」から「派遣こそ関係ある」へ。** 

派遣元の関与がリスク軽減の要になります。 

 

2️⃣ **制度よりも、関係性づくり。** 

スタッフが“本音を話せる”仕組みと文化を整えること。 

 

3️⃣ **トラブル対応ではなく、未然防止へ。** 

勤怠・面談・相談の三本柱で「早期発見」を可能に。 

 

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精神障害やメンタル不調は、数字や報告書の中の話ではありません。 

現場で汗を流す一人ひとりの「心のサイン」です。 

 

その声に気づけるかどうかが、派遣会社の真価を決めます。 

 

今こそ、派遣元としての責任と信頼のあり方を問い直すタイミングではないでしょうか。 

 

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✏️ **社会保険労務士の視点から一言** 

「派遣スタッフが安心して働ける環境づくり」は、 

最も確実で、最も価値ある“リスクマネジメント”です。 

今日からできる小さな一歩を、ぜひ現場で始めてみてください。

 

当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。

初回のご相談は無料です。

 

 

【参照記事】

https://news.yahoo.co.jp/articles/61a25e71e7db8d7bad83ab400dd6edc5dbeb1670

 

【参照リンク】

厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_65250.html

 

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「予め料金が分かっているので、安心して申し込めます」

 「料金交渉が不要で助かります」

 「時間単価は一定なので、研修時間数を調整すればいいから、予算との折り合いも簡単にできます」

 などなど、多くのお客様に喜ばれております。

セミナーについて

当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。

セミナー開催実績例
  • 介護事業者様向け「改正介護保険法セミナー」
  • 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
  • 新規採用をお考えの事業者様向け
    「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
  • 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」

講演について

当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。

講演実績

日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修

「マイナンバー通知開始!
今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」

【参加者様からのお声】

  • 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
  • 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
  • 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
  • マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。

一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」

【参加者様からのお声】

  • メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
  • 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
  • メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
  • 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
  • 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
  • 株式会社LEC 様 主催
    「介護雇用管理研修」業務委託登録講師
  • 株式会社フィールドプランニング 様 主催
    「派遣元・派遣先責任者講習」業務委託主任講師
  • 神奈川韓国商工会議所様 主催
    経営者セミナー「お役立ち助成金講座
    (雇用の確保と5年ルールへの対応策)」
  • 日本経営開発協会様 御紹介
    株式会社根布工業様 主催
    安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ

講演会の講師紹介・講師派遣なら講演依頼.com

研修について

当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。

研修のご依頼例

  • 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
  • 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
  • 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい

執筆のご依頼

雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。

掲載履歴

HP記事執筆

ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。

「働き方改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」

「近代中小企業」2月号

「近代中小企業」2月号

「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。

「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」

「SR」 9月号

SR 9月号

ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。

ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。

(第27号 2012年8月6日発売)

元職員が指南する!ハローワークの効果的な利用の仕方

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