派遣会社が避けたい労働時間管理のミスと改善策
2026.02.16
派遣業界において、労働時間管理は経営上最も重要な課題の一つです。2026年を見据えた労働基準法の改正検討や、派遣先・派遣元双方に課される厳格な管理義務を考えると、些細なミスが重大なコンプライアンス違反や法的リスクにつながる可能性があります。本記事では、社会保険労務士の視点から、派遣会社が陥りやすい労働時間管理のミスと、その具体的な改善策について解説します。
派遣会社が直面する労働時間管理の法的責任
派遣社員の労働時間管理においては、派遣元と派遣先で責任が分担されています。労働者派遣法第44条第2項により、労働時間・休憩・休日・時間外および休日労働に関する労働基準法の規定は、罰則の適用も含めて派遣先が使用者としての責任を負います。一方、派遣元は雇用主として、派遣先から共有される勤怠情報を基に給与計算や安全配慮義務を果たす必要があります。
この複雑な責任構造が、様々なミスやトラブルの原因となっています。派遣元として把握しておくべきは、派遣先での労働基準法違反が発覚した場合でも、派遣元の管理体制が問われるケースが増えているという現実です。
ミス1:「労働時間乖離」の見過ごし
全国の派遣会社で最も深刻化しているのが「労働時間乖離」問題です。これは、派遣先でタイムカードを打刻しているにもかかわらず、派遣元へ正確に共有されていない状態を指します。具体的には以下のようなケースが該当します:
- 朝礼や終礼への参加時間が労働時間として計上されていない
- 着替えや準備時間が業務時間から除外されている
- 派遣先での待機時間が休憩時間として処理されている
- システムの不具合で一部の勤怠データが欠落している
この問題の本質は、「派遣先で実際に働いた時間」と「派遣元が把握している労働時間」との間に乖離が生じていることです。朝礼への参加は明確に業務に該当するため、これを労働時間として認識していない場合、未払い残業代の問題に発展します。
改善策: 派遣元として、派遣先との労働時間管理ルールを明確に文書化し、何が労働時間に該当するかを具体的に定義することが不可欠です。また、派遣先と派遣元の勤怠システムを連携させ、リアルタイムで労働時間を把握できる体制を構築することが理想的です。定期的に派遣スタッフへのヒアリングを実施し、乖離が生じていないか確認するプロセスも重要です。
ミス2:36協定の上限超過と罰則リスク
派遣社員の時間外労働については、派遣元が締結した36協定が適用されます。しかし、派遣元が定めた36協定の上限時間を超える時間外労働を派遣先が行わせた場合、派遣先が労働基準法違反として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。
ここで問題となるのが、派遣先の担当者が派遣元の36協定の内容を正確に理解していないケースです。「派遣先ごとに36協定を作成すればよい」という誤解も地方の派遣会社で散見され、労働基準監督署の調査で修正を求められる事例が増えています。
改善策: 派遣元は、派遣契約締結時に自社の36協定の内容(月間・年間の上限時間、特別条項の有無など)を派遣先に明確に伝達する必要があります。契約書に残業に関する内容が記載されていない場合、派遣スタッフに残業をさせることはできません。また、派遣先の担当者向けに労働時間管理に関する説明会を定期的に開催し、法令遵守の意識を共有することも効果的です。リアルタイムで残業時間を監視できるシステムを導入し、上限に近づいた段階でアラートを発する仕組みも検討すべきでしょう。
ミス3:勤怠記録の不適切な保管と管理
労働基準法第109条により、タイムカードや出勤簿などの勤怠記録は5年間の保管が義務づけられています。派遣社員の場合、派遣元と派遣先の双方に保管義務がありますが、この点を正確に理解していない企業が少なくありません。
特に問題となるのが、以下のようなケースです:
- 派遣先からの勤怠データを月次でしか受領しておらず、日々の管理ができていない
- 紙ベースでの管理により、記録の紛失や改ざんのリスクが高い
- 派遣先管理台帳と勤怠記録が連動しておらず、抵触日の管理ができていない
- 労働基準監督署からの開示要求に即座に対応できる体制が整っていない
改善策: デジタル化された勤怠管理システムの導入が最も効果的です。派遣元と派遣先がリアルタイムで勤怠情報を共有でき、データが自動的に保管・管理される仕組みを構築しましょう。また、派遣先管理台帳と勤怠管理を統合したシステムを活用することで、抵触日(同一組織単位での3年ルール)の管理も同時に行えます。クラウドベースのシステムであれば、災害時のデータ消失リスクも軽減できます。
ミス4:残業申請と承認フローの不備
派遣社員の残業トラブルで多いのが、「事前承認制」に関する問題です。派遣元が事前承認制を採用しているにもかかわらず、派遣先の担当者がその仕組みを理解しておらず、承認なしに行った残業について賃金が支払われないというケースが全国で発生しています。
また、以下のような「サービス残業」の実態も問題視されています:
- 定時以降も働いているのに勤怠申請をさせてもらえない
- 派遣先の社員から「残業時間は給料が出ない」と誤った情報を伝えられる
- 短時間の残業は申請しないよう暗黙の圧力がある
改善策: 残業の申請・承認フローを派遣先と綿密に調整し、誰がどのタイミングで承認するのかを明確化することが重要です。派遣元のシステム上で派遣先の担当者が直接承認できる仕組みを導入すれば、コミュニケーションミスを防げます。また、派遣スタッフに対しては、就業開始時に残業ルールを書面で説明し、「事前承認が必要」「承認のない残業も労働時間として記録する義務がある」ことを明確に伝えましょう。定期的なヒアリングで、サービス残業の有無を確認することも欠かせません。
ミス5:休憩時間の不適切な運用
派遣先の業務特性により、休憩時間が適切に取れていないケースも散見されます。特に、製造業やコールセンターなどでは、業務の性質上、決められた時間に休憩を取ることが難しい場合があります。しかし、労働基準法では6時間を超える労働に対しては45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えることが義務づけられています。
改善策: 派遣契約の段階で、休憩時間の取得方法について派遣先と詳細に協議しましょう。シフト制の場合は、交代要員の配置など、確実に休憩が取れる体制を確認することが必要です。また、派遣スタッフから「休憩が取れなかった」という報告があった場合は、速やかに派遣先と協議し、改善を求める姿勢が重要です。
2026年問題を見据えた今後の対応
2026年に向けて、労働基準法の大幅な改正が検討されています(現在は見送りとなっていますが、今後の動向に注意が必要です)。検討されている主な内容は以下の通りです:
- 14日以上の連続勤務の禁止
- 勤務間インターバル制度の義務化
- 「つながらない権利」の法制化
これらの改正が実現した場合、派遣会社の労働時間管理はさらに複雑化します。今から準備を進めることが、将来のリスク回避につながります。
まとめ:デジタル化と教育が鍵
派遣会社の労働時間管理における最大の改善策は、「デジタル化」と「教育」の2つです。勤怠管理システムのデジタル化により、リアルタイムでの労働時間把握、自動アラート機能、データの長期保管が可能になります。また、派遣先担当者への定期的な教育により、労働基準法や派遣法の理解を深め、トラブルを未然に防ぐことができます。
労働時間管理のミスは、派遣スタッフの信頼を損なうだけでなく、企業の社会的評価や法的リスクにも直結します。経営者として、今一度、自社の労働時間管理体制を見直し、必要な改善を実行していくことが求められています。
当事務所へのご相談は初回無料です。お気軽にホームページ問合せからご連絡ください。
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講演実績
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【参加者様からのお声】
- 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
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一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
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- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
- 株式会社LEC 様 主催
「介護雇用管理研修」業務委託登録講師 - 株式会社フィールドプランニング 様 主催
「派遣元・派遣先・職業紹介責任者講習」業務委託主任講師 - 神奈川韓国商工会議所様 主催
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(雇用の確保と5年ルールへの対応策)」 - 日本経営開発協会様 御紹介
株式会社根布工業様 主催
安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ
研修について
当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)


