労基署の立入調査強化にどう 備える?日本全国派遣会社向け実務ガイド
2026.02.15
近年、労働基準監督署(以下、労基署)による立入調査は年々厳格化の一途をたどっています。長時間労働是正、未払い残業代問題、そして同一労働同一賃金への対応など、企業に求められる労務コンプライアンスの水準はかつてないほど高まっています。
その中でも、特に「派遣会社」は労務管理のリスクが高い業種として注視されています。自社従業員(内勤社員)、登録スタッフ(派遣労働者)、そして派遣先企業という三者間の複雑な雇用・指揮命令関係が存在するため、一般的な事業会社と比較しても管理すべき項目が多岐にわたるからです。
日本全国で事業を展開する派遣会社においては、支店ごとの運用ルールの違いや管理体制のばらつきが致命的な指摘事項につながるケースも少なくありません。本記事では、社会保険労務士の視点から、経営者が知っておくべき「労基署の立入調査強化」への備えについて、実務レベルで具体的に解説します。
1. 日本全国の派遣会社が知るべき「労基署の立入調査強化」 の重要ポイント
労基署の立入調査とは何か?
労基署の立入調査(臨検監督)とは、労働基準監督官が事業所に直接訪問し、労働基準法などの法令が遵守されているかを確認する行政調査です。調査には、計画的に行われる「定期監督」、従業員からの通報に基づく「申告監督」、労働災害発生時に行われる
「災害時監督」の主に3種類があります。
派遣会社に対する調査で特徴的なのは、「実態と書類の整合性」が極めて厳しくチェックされる点です。労働条件通知書、派遣契約書、タイムカード(勤怠記録)、賃金台帳、36協定届出状況、就業規則、同一労働同一賃金に関する説明資料など、膨大な書類の提出が求められます。形式的に書類が整っていても、運用実態と乖離があれば即座に是正勧告の対象となります。
調査強化が派遣会社に与える影響
現在、監督署が特に重点を置いているのが以下の分野です。
固定残業代の運用適法性と計算根拠
派遣先での実際の労働時間管理
社会保険の加入漏れ
同一労働同一賃金への実質的な対応
多くの派遣会社で盲点となりやすいのが、「派遣先任せ」になっている勤怠管理です。現場の指揮命令は派遣先が行いますが、労働時間管理や割増賃金の支払い責任はあくまで派遣元である派遣会社にあります。「派遣先のデータ通りに計算していた」という弁明は、労基署には通用しません。
2. 派遣会社が押さえるべき「立入調査」 での頻出指摘事項
実際に社会保険労務士として多くの立ち合い経験に基づくと、派遣会社への是正勧告は特定のポイントに集中する傾向があります。これらは悪意による違反というよりも、複雑な制度への理解不足や管理体制の不備から生じることがほとんどです。
① 残業代の計算誤り と固定残業代の不備
最も多い指摘の一つが賃金関係です。特に固定残業代制度を導入している場合、基本給と残業代の区分が不明確であったり、超過分が正しく支払われていなかったりするケースが頻発しています。
② 36協定の未締結・ 未届出
全国展開している派遣会社でよく見られるのが、支店単位での36協定(時間外・休日労働に関する協定届)の管理漏れです。事業場ごとに代表者を選出し、管轄の監督署へ届け出る必要がありますが、本社一括管理の弊害で地方拠点が未届となっている事例が散見されます。
③ 同一労働同一賃金の説明義務違反
法改正により重要性が増しているのが「同一労働同一賃金」への対応です。待遇差に関する合理的な説明ができる準備が整っていない、あるいは派遣労働者への説明義務を果たしていないとして指導を受けるケースが増加しています。
④ 勤怠記録と実態の不一致
派遣先での実際の始業・終業時刻と、派遣元に報告されたタイムシートの記録に矛盾があるケースです。PCのログ履歴など客観的な記録との照合を求められることもあり、管理の甘さが露呈しやすいポイントです。
3. 調査対応で失敗しないための事前準備と対策
「調査が来てから対応する」という後手の姿勢では、是正勧告や遡及支払いのリスクを回避できません。経営者が主導し、以下の3段階で対策を講じることが重要です。
① 自主監査( 労務チェック) の実施
まずは現状のリスクを可視化することから始めます。社会保険労務士などの専門家による模擬調査や自主監査を実施し、潜在的な法違反がないか洗い出します。
② 書類整備と統一ルールの徹底
契約書や通知書のフォーマットを最新の法令に合わせて改定し、全国の支店で統一運用できるようルールを明文化します。属人的な運用を排除することが、組織的なリスクヘッジにつながります。
③ 管理者研修の実施
現場の支店長や営業担当者が労働法を正しく理解していなければ、実務は改善しません。定期的な社内研修を行い、コンプライアンス意識を底上げすることが不可欠です。
4. 適切な労務管理で得られる経営上のメリ ット
労基署の立入調査対策は、単なる「守り」ではありません。強固なコンプライアンス体制を構築することは、派遣会社としての企業価値向上に直結します。
第一に、コンプライアンス重視の大手派遣先企業からの信頼獲得につながります。労務リスクの低い派遣会社は、派遣先にとっても安心して取引できるパートナーとなります。第二に、派遣スタッフの定着率向上です。SNS等で企業の評判が拡散しやすい現代において、適正な労務管理は採用力の強化や離職防止に大きく寄与します。
「労基署対策=経営基盤の強化」と捉え、前向きに取り組む姿勢が、これからの派遣会社経営には求められています。
5.まとめ
労基署による立入調査強化の流れは今後も続き、派遣会社に対する監視の目はより厳しくなると予想されます。構造的に複雑な労務管理を要する派遣事業においては、一般企業以上に慎重かつ専門的な体制整備が欠かせません。
「いつ調査が入っても問題ない状態」を作ることこそが、最大のリスクヘッジであり、企業の成長基盤となります。自社だけで対応が難しい場合は、派遣業界に精通した社会保険労務士のサポートを受けることを強く推奨します。
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講演実績
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【参加者様からのお声】
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- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
- 株式会社LEC 様 主催
「介護雇用管理研修」業務委託登録講師 - 株式会社フィールドプランニング 様 主催
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株式会社根布工業様 主催
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泉文美 講師紹介ページ
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- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
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雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)


