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NEW 派遣労働者の同一労働同一賃金、適用範囲はどこまで?派遣会社経営者が押さえるべき実務ポイント   2026.01.23

はじめに:派遣労働者特有の複雑性を理解する

2020年4月の労働者派遣法改正により、派遣労働者にも「同一労働同一賃金」が適用されるようになりました。この制度は、正社員と非正規社員の不合理な待遇差を解消するための重要な施策ですが、派遣労働者に関しては独特の仕組みが設けられており、多くの派遣会社経営者の方々から「いったい誰と比べて、どこまで同じにすればいいのか分かりにくい」というご相談をいただきます。

派遣労働は、雇用主である派遣元企業と、実際に働く場所である派遣先企業が異なるという特殊性があります。そのため、一般的な正社員と非正規社員の比較とは異なる視点が必要になります。派遣元企業の人事担当者だけでなく、派遣社員を受け入れる派遣先企業からも、適用範囲や比較対象についての問い合わせが増加しているのが現状です。

派遣労働者には、労働者派遣法に基づく独自のルールが設けられています。このルールを正確に理解していないと、知らず知らずのうちに法令違反を犯してしまい、行政指導や訴訟リスクにつながる可能性があります。派遣会社を経営される皆様には、この制度の正確な理解が欠かせません。

本記事では、社会保険労務士の立場から、派遣労働者における同一労働同一賃金の適用範囲と実務上の注意点について、具体的に解説していきます。

結論:派遣労働者には「2つの方式」のいずれかが適用される

まず結論から申し上げますと、派遣労働者に対する同一労働同一賃金は、派遣先の正社員と単純に比較するわけではありません。これが最も重要なポイントです。

労働者派遣法により、派遣労働者の待遇決定方式として「派遣先均等・均衡方式」または「労使協定方式」のいずれかを派遣元が選択し、その方式に基づいて待遇を決定する仕組みになっています。どちらの方式を採用するかによって、適用範囲や比較対象、実務上の手続きが大きく異なるため、派遣会社としては自社がどの方式を採用しているのかを明確に認識しておく必要があります。

この2つの方式は、それぞれメリット・デメリットがあり、派遣会社の規模や事業形態、派遣先の業種などによって、どちらが適しているかは異なります。また、一度決めた方式を途中で変更することも可能ですが、労使協定の締結や派遣先への通知など、相応の手続きが必要になります。

現在の実務では、多くの派遣元企業が「労使協定方式」を採用していますが、派遣先の状況や派遣労働者の業務内容によっては、「派遣先均等・均衡方式」の方が適切な場合もあります。それでは、この2つの方式について詳しく見ていきましょう。

 

解説:派遣先均等・均衡方式と労使協定方式の違いとは

派遣先均等・均衡方式の仕組み

派遣先均等・均衡方式とは、派遣先企業で同じ業務を行っている通常の労働者(多くは正社員)と派遣労働者の待遇を比較し、不合理な差をなくすという方式です。この方式は、パートタイム・有期雇用労働法における正社員と非正規社員の比較方法と似た考え方に基づいています。

比較対象となるのは、業務内容や責任の程度、配置の変更範囲などが同一、または類似している派遣先労働者です。具体的には、以下の3つの要素を総合的に考慮して比較対象者を選定します。

  1. 業務の内容:従事している業務の種類や内容が同じか類似しているか
  2. 責任の程度:業務遂行における権限や裁量、トラブル対応の責任などが同等か
  3. 配置の変更範囲:転勤や異動、業務変更の可能性が同程度か

比較対象となる待遇項目は非常に幅広く、基本給、賞与、各種手当(通勤手当、住宅手当、家族手当、役職手当など)、福利厚生施設の利用、教育訓練機会の提供など、あらゆる労働条件が対象になります。

この方式のメリットは、派遣先企業の実態に即した公平な待遇が実現できる点です。一方、デメリットとしては、派遣先ごとに比較対象者が異なるため、同じ派遣元から派遣される労働者であっても、派遣先によって待遇が大きく変わる可能性があり、賃金管理が複雑になることが挙げられます。

また、派遣先企業には比較対象労働者の待遇情報を派遣元に提供する義務が生じるため、派遣先の協力が不可欠です。情報提供が適切に行われない場合、派遣元として適切な待遇決定ができないという問題も生じます。

 

労使協定方式の仕組み

一方、労使協定方式は、派遣元企業が派遣労働者の代表と労使協定を締結し、その協定に基づいて賃金や待遇を決める方式です。この方式の最大の特徴は、派遣先の正社員との直接比較を行わず、厚生労働省が毎年公表する「職種別の一般労働者の賃金水準」と同等以上の賃金を支払うことが求められる点です。

具体的には、厚生労働省の「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第30条の4第1項の規定に基づく労使協定について」に基づき、職種や地域、能力・経験に応じた賃金テーブルを設定する必要があります。

労使協定には以下の事項を定める必要があります。

  1. 協定の対象となる派遣労働者の範囲
  2. 賃金の決定方法(職種別の基準額、昇給ルールなど)
  3. 公正な評価方法
  4. 賃金以外の待遇(福利厚生、教育訓練など)
  5. 段階的・体系的な教育訓練の実施
  6. 有効期間

この方式のメリットは、派遣先が変わっても賃金水準が維持されるため、派遣労働者にとって安定性があり、派遣元にとっても賃金管理がしやすいという点です。また、派遣先から詳細な待遇情報を入手する必要がないため、手続き的な負担も軽減されます。

現在、多くの派遣元企業がこの労使協定方式を採用している理由は、実務上の運用のしやすさと、派遣労働者の待遇の安定性を両立できるためです。ただし、労使協定の締結には過半数代表者の選出など、適正な手続きが必要であり、形式的な協定では法的に無効とされるリスクがあります。

 

よくある誤解:派遣先の正社員とすべて同じ待遇にする必要がある?

同一労働同一賃金について、最も多い誤解が「派遣社員だから、派遣先の正社員と給与も手当も完全に同じにしなければならない」というものです。しかし、これは正しくありません。

同一労働同一賃金の趣旨は、あくまで「不合理な待遇差をなくす」ことであり、すべての待遇を完全に同一にすることではありません。業務内容や責任の程度、転勤の有無、将来的なキャリアパスなどが異なれば、合理的な理由に基づく待遇差は認められます。

例えば、派遣先の正社員には全国転勤があり、管理職へのキャリアパスも用意されている一方、派遣労働者には転勤がなく、特定の業務に限定されているような場合、基本給や賞与に一定の差があることは不合理とは言えません。重要なのは、その差に「合理的な理由」があり、「説明できる」ことです。

また、労使協定方式を採用している場合は、派遣先の賃金体系と同一である必要はまったくありません。協定に定めた内容と、厚生労働省の基準を満たしていれば適法となります。派遣先の正社員が年収600万円だからといって、派遣労働者も同額にしなければならないわけではないのです。

ただし、どちらの方式を採用している場合でも、派遣労働者への説明義務は非常に重要です。待遇決定の方式や、なぜその待遇になったのかという根拠を明確に説明できなければ、法令違反となる可能性があります。派遣契約の締結時や更新時には、待遇に関する説明書面を交付し、派遣労働者から質問があった場合には誠実に対応する体制を整えておく必要があります。

さらに、「同じ派遣会社から同じ派遣先に派遣されているのに、なぜ自分だけ待遇が違うのか」という疑問が生じないよう、社内の賃金決定ルールを明確化し、透明性を確保することも重要です。

 

実務での注意点:派遣元・派遣先それぞれの責任

同一労働同一賃金の実務において、最も注意すべき点は、派遣元が選択している方式を派遣先が正しく理解していないケースが非常に多いということです。これにより、必要な情報提供が行われなかったり、逆に不要な情報を求められたりといったトラブルが発生しています。

 

派遣元企業の責任と注意点

派遣元企業としては、まず自社がどちらの方式を採用しているのかを明確にし、派遣先企業に対してその旨を適切に通知する必要があります。

派遣先均等・均衡方式を採用している場合、派遣先から比較対象労働者の賃金、賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練などの詳細な情報を入手しなければなりません。この情報がなければ適切な待遇決定ができないため、派遣契約締結前に確実に入手する体制を整えることが重要です。

労使協定方式を採用している場合、以下の点に特に注意が必要です。

  1. 労使協定の有効期間管理:協定には有効期間を定める必要があり、期間満了前に更新手続きを行わないと、協定が無効になってしまいます。
  2. 賃金改定のタイミング:厚生労働省の基準は毎年更新されるため、それに合わせて賃金テーブルを見直す必要があります。
  3. 派遣労働者への書面交付:協定の内容や待遇決定の考え方を記載した説明書面を、派遣開始時に交付する義務があります。
  4. 教育訓練の実施:協定には「段階的・体系的な教育訓練」の実施を定める必要があり、実際に訓練を提供しなければなりません。

また、どちらの方式であっても、派遣労働者から待遇に関する説明を求められた場合には、速やかに対応する体制を整えておく必要があります。説明を拒否したり、不誠実な対応をしたりすると、労働局からの指導対象となる可能性があります。

 

派遣先企業の責任と注意点

派遣先企業の責任も決して軽くありません。派遣元が派遣先均等・均衡方式を採用している場合、派遣先には比較対象となる労働者の待遇情報を派遣元に提供する法的義務があります。この情報提供を怠ると、労働者派遣契約を締結できないことになっています。

具体的には、以下のような情報を提供する必要があります。

  • 比較対象労働者の職務内容、責任の程度、配置変更の範囲
  • 基本給、賞与の有無と金額
  • 各種手当(通勤手当、住宅手当、家族手当、時間外手当など)
  • 福利厚生施設(食堂、休憩室、更衣室など)の利用条件
  • 教育訓練の実施状況

一方、労使協定方式を採用している場合でも、派遣先企業の責任がなくなるわけではありません。特に重要なのが、福利厚生施設の利用に関する配慮です。派遣先は、食堂、更衣室、休憩室などの福利厚生施設について、派遣労働者を不合理に排除してはならないとされています。

「派遣社員だから食堂は使えません」「ロッカーは正社員専用です」といった扱いは、明確な法令違反となります。施設のキャパシティに限界がある場合でも、正社員と同じルールで利用できるよう配慮する必要があります。

また、派遣先は派遣労働者に対しても、業務遂行に必要な教育訓練を提供する義務があります。正社員には提供している安全衛生教育や業務スキル研修を、派遣労働者には提供しないというのは認められません。

 

契約書類の整備

派遣元・派遣先双方にとって、契約書類の整備も重要な実務ポイントです。労働者派遣契約書には、どちらの方式を採用しているのか、派遣労働者の待遇がどのように決定されるのかを明記する必要があります。

また、派遣元から派遣労働者に交付する就業条件明示書にも、待遇決定方式や、派遣先の労働者との待遇の相違の内容・理由を記載することが求められています。これらの書類が不備だと、行政指導の対象となるだけでなく、派遣労働者とのトラブルに発展するリスクもあります。

士業としての支援内容:社労士・行政書士による制度設計サポート

派遣労働者の同一労働同一賃金対応は、労働者派遣法、労働基準法、労働契約法が複雑に絡み合う分野であり、専門知識なしに適切に対応するのは非常に困難です。社会保険労務士は、この分野において派遣会社を実務面から強力にサポートできる専門家です。

 

派遣元企業への支援内容

社会保険労務士が派遣元企業に提供できる主な支援は以下の通りです。

1. 方式選択のアドバイス
派遣先均等・均衡方式と労使協定方式のどちらが自社に適しているか、派遣先の業種、派遣労働者の職種、社内管理体制などを総合的に判断してアドバイスします。

2. 労使協定方式の協定書作成
労使協定方式を採用する場合、法令に適合した労使協定の作成を支援します。過半数代表者の選出手続き、協定内容の設計、賃金テーブルの作成など、一連のプロセスをサポートします。

3. 賃金水準のチェック
厚生労働省が公表する基準と自社の賃金テーブルを比較し、法令要件を満たしているかを確認します。毎年の基準改定に合わせた見直しも支援します。

4. 説明書面の整備
派遣労働者に交付する待遇に関する説明書面や、就業条件明示書の様式を整備し、法令で求められる記載事項が漏れなく含まれているかをチェックします。

5. 社内規程の整備
派遣労働者の賃金規程や評価制度など、社内規程の整備を支援します。透明性のある賃金決定ルールを確立することで、トラブル防止につながります。

6. 行政対応のサポート
労働局の調査や指導があった場合、適切に対応するためのアドバイスや書類作成を支援します。

 

派遣先企業への支援内容

派遣先企業に対しても、社会保険労務士は以下のような支援を提供できます。

1. 情報提供義務の整理
派遣元がどちらの方式を採用しているかに応じて、派遣先として提供すべき情報を整理し、必要な書類の作成を支援します。

2. 受け入れ時の注意点のアドバイス
福利厚生施設の利用、教育訓練の提供など、派遣労働者受け入れ時の注意点をアドバイスします。

3. 社内ルール整備
派遣労働者の受け入れマニュアルや、正社員向けの注意事項などを整備し、社内での適切な受け入れ体制を構築します。

4. 契約書類のレビュー
労働者派遣契約書の内容をレビューし、法令違反のリスクがないかをチェックします。

これらの支援を通じて、派遣元・派遣先双方が法令を遵守しながら、円滑に派遣事業を運営できる環境を整えることができます。

 

まとめ:正確な理解と適切な対応が派遣事業の安定につながる

派遣労働者における同一労働同一賃金は、「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」という2つの枠組みの中で適用されます。どこまで待遇を同じにすべきかは、採用している方式によって大きく異なり、単純に派遣先の正社員と比較すればよいというものではありません。

派遣会社の経営者として押さえるべき重要ポイントは以下の通りです。

  1. 自社がどちらの方式を採用しているかを明確にし、関係者全員に周知する
  2. 労使協定方式の場合、協定の有効期間管理と賃金水準の定期見直しを徹底する
  3. 派遣労働者への説明義務を確実に履行し、透明性のある待遇決定を行う
  4. 派遣先企業との連携を強化し、必要な情報のやり取りを円滑にする
  5. 契約書類や社内規程を法令に適合した形で整備する

同一労働同一賃金への対応が不十分だと、労働局からの指導対象となるだけでなく、派遣労働者からの訴訟リスクも高まります。また、適切な対応ができていない派遣会社は、優秀な派遣労働者の確保や派遣先企業からの信頼獲得が難しくなり、事業の競争力低下にもつながります。

一方、この制度に適切に対応することで、派遣労働者の満足度向上、離職率の低下、派遣先企業からの評価向上など、多くのメリットを享受できます。同一労働同一賃金は、単なる法的義務ではなく、派遣事業の質を高めるための重要な機会と捉えるべきでしょう。

派遣元・派遣先双方が制度の仕組みを正しく理解し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家の支援を受けることが、安定した派遣活用と法令遵守につながります。派遣労働者、派遣元企業、派遣先企業の三者がそれぞれにメリットを感じられる、公正で持続可能な派遣事業の実現を目指していただければと思います。


派遣労働者の同一労働同一賃金に関するご相談や、労使協定の作成、賃金テーブルの設計など、お困りのことがございましたら、社会保険労務士みなとみらい人事コンサルティングまでお気軽にご相談ください。貴社の状況に応じた最適なソリューションをご提案いたします。

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