派遣会社が知っておくべき最低賃金引き上げと国の新支援策とは? 2025.09.16
## 1. はじめに:最低賃金引き上げの背景
ここ数年、日本の最低賃金は毎年のように引き上げが続いています。
政府は「2030年代半ばまでに全国平均で時給1,500円を目指す」との方針を掲げており、企業にとって賃上げは避けられない大きな流れとなっています。
人手不足が深刻化するなか、最低賃金の引き上げは「人材確保のための必須条件」ともいえる状況です。
しかし一方で、中小企業にとっては「人件費増による経営負担」という大きな課題も突きつけられています。
このような環境変化の中で、派遣会社もまた例外ではありません。派遣スタッフの賃金は最低賃金の影響を直接受けるため、派遣料金の見直しや取引先企業との交渉が必須となってきます。
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## 2. 経産省が発表した「生産性向上支援センター」とは
経済産業省は2025年4月から、全国47都道府県に「生産性向上支援センター(仮称)」を設置すると発表しました。
これは中小企業が直面する賃上げ負担に対応するため、経営改善やデジタル化を通じて「生産性向上」を後押しする取り組みです。
各センターは、すでに各地にある「よろず支援拠点」に併設される予定で、中小企業診断士などの専門家が常駐し、相談対応やツール活用の支援を行います。
対象業種は飲食・宿泊業をはじめ、人件費の影響を受けやすい業界ですが、幅広い中小企業が利用可能となる見通しです。
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## 3. なぜ中小企業の生産性支援が重要なのか
最低賃金が引き上げられると、単純に「賃金を上げる」だけでは企業の体力は持ちません。
そこで必要になるのが「生産性向上」、すなわち「限られた人員と時間でより多くの成果を生み出す仕組みづくり」です。
たとえば、ITツールの導入による事務作業の効率化、業務フローの見直し、従業員教育によるスキルアップなどが挙げられます。
国の支援センターは、こうした改善策を中小企業が進めやすくするための伴走支援を行うのです。
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## 4. 派遣業界への直接的な影響
派遣会社にとって最低賃金の引き上げは、すぐに「派遣スタッフの賃金改定」として跳ね返ってきます。
特に地域によっては、これまで最低賃金ギリギリで働いていたスタッフの時給を引き上げざるを得ず、利益率が圧迫されるケースが増えるでしょう。
さらに、派遣法上「同一労働同一賃金」が適用されるため、派遣先の従業員とのバランスも考慮しなければなりません。
結果として「派遣料金の見直し」「取引先への説明と交渉」が避けられなくなるのです。
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## 5. 派遣先との単価交渉に必要な視点
単価交渉は、派遣会社にとって常にセンシティブなテーマです。
最低賃金の引き上げを理由に派遣料金を上げたいと考えても、派遣先企業からは「コスト増は困る」という反応が返ってくる可能性があります。
ここで重要になるのは「根拠と説明」です。
- 最低賃金の法改正という“外部要因”であること
- 賃上げがスタッフの定着率や質の向上につながること
- 他社動向や国の施策を踏まえた妥当性
これらをデータとストーリーで示すことで、派遣先企業も納得しやすくなります。
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## 6. デジタル化と業務効率化の重要性
派遣会社自身も「生産性向上」を避けて通れません。
人材管理や労務処理、請求業務など、多くの事務作業を抱える業界だからこそ、デジタル化による効率化が成果を大きく左右します。
たとえば、
- 勤怠管理システムの自動化
- 電子契約やクラウド文書管理
- AIによるマッチング支援ツール
これらを導入することで「人件費増=利益減」の構図を少しでも緩和することができます。
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## 7. 新センターの間接的なメリット
経産省の新センターは直接的に派遣会社を対象とはしていません。
しかし、派遣先である中小企業が支援を受けて経営力を高めれば、結果的に「派遣料金を受け入れる余地」が広がります。
つまり、派遣会社にとっては「派遣先と一緒に国の支援を活用する」という姿勢が大切です。
「御社も生産性向上支援センターを利用されてはどうですか?」と情報を共有することで、派遣先との信頼関係が強まる効果も期待できます。
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## 8. 社労士が考えるリスクとチャンス
社労士として現場を見ていると、派遣会社にとって「リスク」と「チャンス」は表裏一体です。
リスク:
- 利益率の低下
- 契約単価交渉の難航
- 人材流出リスクの増大
チャンス:
- 派遣スタッフの定着率アップ
- 派遣先との信頼関係強化
- デジタル化による業務改善と差別化
賃上げを単なる負担としてとらえるのではなく、「業界全体の底上げ」として取り組めるかどうかが、これからの派遣会社の成長を左右するポイントです。
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## 9. 派遣会社が今から準備すべき3つの行動
1️⃣ **賃金改定ルールの確認**
最低賃金の地域差や派遣スタッフごとの影響を把握し、早めに対応方針を決めることが大切です。
2️⃣ **単価交渉のデータ整備**
賃金改定や社会保険料負担の増加分を数値化し、派遣先への説明資料を用意しておきましょう。
3️⃣ **自社の労務・業務効率化**
勤怠管理や給与計算のデジタル化を進め、少ない人員でも運営できる体制を整えることが必須です。
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## 10. まとめ:賃上げ時代を「選ばれる派遣会社」への転機に
最低賃金の引き上げは、派遣会社にとって避けられない現実です。
しかし、国の支援策や派遣先企業との協働を通じて「ただのコスト増」ではなく「信頼関係を強化し、選ばれる派遣会社になるための転機」ととらえることができます。
賃上げの波をどう乗り越えるかは、派遣会社の戦略次第です。
一歩先を見据え、国の支援を活用しながら、ぜひ前向きに取り組んでいただきたいと思います。
当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
※参照記事)https://news.yahoo.co.jp/articles/683d7f3a4400a511a84e19fc9558d686b33582ea
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「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
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講演実績
日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修
「マイナンバー通知開始!
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【参加者様からのお声】
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一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
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泉文美 講師紹介ページ
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研修のご依頼例
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- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)