派遣会社が注意すべき「マージン率等の情報提供」とは?作成時のポイント解説
2025.09.01
派遣会社の皆さま
9月もブログを公開しました。実務のお役に立つ内容ですので、ご覧いただけましたら幸いです。
https://jinzai-biz.com/employment_labor/10674/
また、下記に「マージン率等の情報提供」のポイントについて、ご説明いたします。
### 1. マージン率等の情報提供とは?【基礎知識】
派遣会社が毎年対応しなければならない業務のひとつに「マージン率等の情報提供」があります。
これは、派遣労働者や取引先企業が、派遣会社の状況を適切に把握できるようにするための情報公開制度です。
ここでいう「マージン率」とは、派遣料金(派遣先から受け取る金額)のうち、派遣労働者に支払われる賃金を除いた部分の割合を指します。
この部分には、派遣会社の利益だけでなく、社会保険料の会社負担分、教育訓練費、福利厚生費など、派遣社員をサポートするために必要なコストが含まれています。
つまり、マージン率は単に「どれだけ利益を取っているか」を示す数字ではなく、会社の仕組みやサービスの充実度を反映するものでもあります。
そのため、数値だけが一人歩きしないよう、正しい理解を前提に公開することが非常に重要です。
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### 2. 法改正で義務化された背景【派遣法のポイント】
マージン率等の情報公開が義務化されたのは、平成24年の労働者派遣法改正によるものです。
当時、派遣会社と労働者の間で情報の非対称性が問題視されており、派遣労働者が自分に合った派遣会社を選びやすくするため、情報公開が求められるようになりました。
さらに令和3年4月からは、公開義務がより厳格化されました。これまでは事業所の備え付け資料での閲覧対応も認められていましたが、今では「インターネットを通じて常時確認できる状態」にすることが原則となっています。
これにより、派遣労働者や派遣先企業が気軽に情報を入手できる環境が整えられ、透明性が大きく向上しました。
派遣会社としては「ホームページに載せるのを忘れていた」という言い訳は通用しなくなっており、対応を怠ると行政指導や監査で指摘を受けるリスクがある点に注意が必要です。
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### 3. マージン率の正しい意味とは?【誤解されやすい点】
マージン率を「派遣会社の取り分」と誤解している方は多くいます。
しかし、実際には以下のような項目が含まれています。
- 社会保険料(会社負担分)
- 雇用保険料、労災保険料
- 派遣社員の教育訓練費
- 福利厚生費(健康診断など)
- 管理運営費(営業活動、人件費、事務所維持費など)
- そして最終的に会社の利益
このように、派遣会社が健全に事業を運営し、派遣社員を安心して働かせるためのコストが多く含まれています。
マージン率が20%と聞くと「会社が2割も利益を取っている」と誤解されがちですが、実際に純粋な利益として残るのはごく一部というのが現実です。
したがって、派遣会社としては、公開する際に「マージン率の意味」を丁寧に説明することが重要です。
単に数字を載せるだけではなく、その背景を理解してもらう工夫をしなければ、誤解を招きやすい情報公開になってしまいます。
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### 4. 低いマージン率=優良会社ではない理由
派遣先企業や求職者の中には「マージン率が低い会社の方が良心的だ」と考える人もいます。
しかし、実際にはマージン率の低さと会社の良し悪しは必ずしも一致しません。
例えば、マージン率が低いからといって、教育訓練が十分に行われていない可能性もありますし、社会保険の手厚さに欠ける場合もあります。
一方で、マージン率がやや高い会社でも、しっかりと研修制度を整え、安定した雇用管理を行っているところも多いのです。
大切なのは「マージン率の数字」そのものではなく、その会社がどのように派遣社員を支えているのかという総合的な視点です。
派遣会社は、公開の際にこの点をしっかり説明し、「数字だけでは判断できない」というメッセージを伝えることが信頼につながります。
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### 5. 公開義務の範囲【何を載せなければならないか】
派遣会社が公開しなければならないのは、マージン率だけではありません。
具体的には以下のような情報が対象となります。
- マージン率
- 教育訓練の内容と実施人数
- キャリアコンサルティングの実施状況
- 派遣労働者数や派遣先数
- 平均的な派遣料金・賃金
これらをきちんと整理して公開することが求められています。
特に教育訓練やキャリア形成に関する情報は、派遣労働者にとって非常に重要な判断材料となります。
公開範囲を十分に理解していないと「一部の情報が抜けていた」という事態に陥り、行政からの指導につながることがあります。
必ず厚生労働省の指針を確認し、必要な項目を網羅して公開しましょう。
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### 6. 公開方法の注意点【ホームページと人材サービス総合サイト】
公開方法については、次の2点を押さえる必要があります。
① 自社ホームページに掲載する
→ 自社サイトの「会社情報」や「派遣事業に関する情報公開」ページに、PDFなどで掲載する方法が一般的です。
② 厚生労働省「人材サービス総合サイト」に入力する
→ 令和3年からは、厚労省が運営する「人材サービス総合サイト」への入力も推奨されています。
ここに情報を掲載することで、求職者や企業が横並びで比較しやすくなり、信頼性の向上につながります。
両方に対応しておくことで、行政的な要件を満たすだけでなく、利用者へのアピールにもなります。
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### 7. 情報提供でよくあるトラブル事例
実務の現場では、次のようなトラブルがよく見られます。
- マージン率の計算方法を誤っていた
- 公開内容の更新を忘れていた
- 教育訓練の記載が不十分だった
- ホームページにリンク切れが発生していた
- 公開はしていたが、分かりにくい場所に掲載していた
こうした不備は、労働局の調査で指摘されるだけでなく、派遣先企業から「コンプライアンス意識が低い」と判断される恐れもあります。
毎年の更新をルーチン化し、複数の担当者でチェックする仕組みを整えることが重要です。
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### 8. 派遣先・労働者からの信頼につながる工夫
情報公開は「義務だからやる」だけでは不十分です。
派遣会社の信頼を高めるためには、以下の工夫が効果的です。
- 公開ページに「マージン率の意味」を説明する補足文をつける
- 図解やグラフで分かりやすく表現する
- 教育訓練の内容を具体的に示し、社員の成長支援をアピールする
- 更新日を明記し、常に最新情報であることを伝える
これらを意識することで、「きちんとした会社だ」と感じてもらいやすくなり、派遣先や求職者からの信頼を得られます。
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### 9. 実務で気をつけたいチェックポイント
実際に情報提供を行う担当者が押さえるべきチェックポイントは次のとおりです。
- マージン率を正しく計算しているか
- 公開が義務付けられている全項目を網羅しているか
- 年度ごとの更新作業を忘れずに実施しているか
- 公開方法(自社HP+人材サービス総合サイト)の両方に対応しているか
- 閲覧者が理解しやすい形式で掲載しているか
このチェックリストをもとに作業フローを作成すれば、担当者が変わっても安定した対応が可能になります。
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### 10. まとめと社労士の活用ポイント
「マージン率等の情報提供」は、派遣会社にとって毎年必ず取り組むべき重要な業務です。
数字だけを公開するのではなく、その意味を正しく伝え、教育訓練やキャリア形成の取り組みをセットで示すことが信頼につながります。
一方で、実務上は計算方法の誤りや更新漏れといったトラブルも少なくありません。
こうしたリスクを回避するためには、専門家である社会保険労務士に相談することも有効です。
情報公開は「義務対応」であると同時に、「信頼を見える化するチャンス」でもあります。
派遣会社の魅力を正しく伝え、労働者や派遣先から選ばれる存在になるために、ぜひ丁寧な取り組みを意識していただければと思います。
もしご相談がありましたら、お問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。初回の相談は無料です。
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「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
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講演実績
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【参加者様からのお声】
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一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
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安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ
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当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)