社労士が解説:派遣労働者の待遇決定で押さえるべき均等・均衡待遇の核心
2025.12.10
1.均等・均衡待遇とは何か|派遣会社が理解すべき基本ルール
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「均等・均衡待遇」という言葉は、働き方改革以降、人事や派遣業界の方にとって必須のキーワードになりました。特に派遣会社にとっては、行政指導やトラブルを防ぐために“正しく理解しておきたい制度”の代表格です。
まず「均等待遇」とは、性別や雇用形態を理由とした不合理な差別的取り扱いを禁止するものです。
同じ仕事、同じ責任が求められるなら、待遇も同じ原則であるべき―これが均等待遇の根本です。
一方、「均衡待遇」とは、待遇の違いに“合理的な根拠”が必要であるという考え方です。
例えば、
・仕事内容の違い
・求められる能力の違い
・配置転換の範囲の違い
など、客観的に説明できれば待遇差は認められます。
社労士として多くの企業を支援してきた経験から言うと、均等・均衡待遇は“正社員とまったく同じ待遇にしなければいけないルール”ではありません。
むしろ大切なのは、違いがある場合、その理由をきちんと説明できるかどうかです。
派遣会社の場合、派遣先との情報連携が不十分なまま制度だけ整えた結果、説明ができずトラブルになるケースが後を絶ちません。
まずは「何が必要な情報か」を整理することが出発点です。
2.派遣労働者に適用される「派遣先均等・均衡待遇」のポイント
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派遣労働者には、特有のルールである「派遣先均等・均衡待遇」が適用されます。
派遣は雇用主(派遣元)と働く場所(派遣先)が異なる構造を持ちます。
・雇用契約は派遣元
・実際の仕事内容や指揮命令は派遣先
という仕組みのため、待遇決定には双方の情報が必要になります。
派遣元には賃金・福利厚生などの待遇決定責任がありますが、派遣先の仕事内容や求められる能力を知らなければ判断できません。
そのため法律では、派遣先に「必要な情報の提供義務」が課されています。
実務で起きやすい問題は、
「派遣先が情報を提供してくれない」
「派遣元がどの情報を求めればよいかわからない」
という双方の理解不足です。
この認識のズレは待遇判断の誤りや説明不足を生み、行政指導やクレームの原因になります。
制度を正しく運用するには、派遣元・派遣先の連携が欠かせません。
3.派遣元(派遣会社)が負う役割とリスクとは?
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派遣元がもっとも注意すべきポイントは、
「待遇決定の最終責任者は派遣元である」
という点です。
そのため、以下のような制度整備が必須となります。
・賃金制度の明確化
・手当の支給基準の合理性確保
・表記ルールを揃えた評価基準
・協定書、契約書の整備
・待遇差の説明資料の作成
これらが整っていないと、
「なぜこの待遇なのか説明できない」
「派遣先と情報が合っていない」
といった問題が起こりやすくなります。
私の実務経験でも、制度が不十分なまま派遣労働者から質問を受け、担当者が答えられずトラブルに発展してしまうケースは少なくありません。
制度は“作るだけ”ではなく、実際に説明できるレベルまで整理しておくことが重要です。
4.派遣先企業が担う情報提供義務|最もトラブルが起きやすい部分
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派遣先は派遣労働者の業務内容に最も詳しい立場です。
そのため法律では、以下の情報を派遣元へ提供する義務があります。
・仕事内容の詳細
・求められる能力
・責任の範囲
・配置転換の有無
・福利厚生の内容
・当該業務を行う正社員の待遇情報
これらがなければ、派遣元は賃金や手当の“妥当性”を判断できません。
改善が必要な職場では、仕事内容が曖昧で、担当者によって説明がバラバラというケースがよくあります。
そのため、ジョブディスクリプション(職務記述書)の整備は非常に有効です。
社労士として支援していても、
「業務内容が整理されていないために待遇判断ができない」
という相談は非常に多く、まずはこの整備から着手することがほとんどです。
5.労使協定方式での賃金決定|派遣会社が押さえるべきポイント
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派遣元は、待遇決定方式として「労使協定方式」を採用することができます。この方式では、厚生労働省公表の“一般賃金水準”を基準に賃金を設定します。
<一般賃金水準>
・職業安定業務統計
・賃金構造基本統計調査
労使協定方式を適切に運用するには、次の内容を明確にしておく必要があります。
・協定を締結する範囲(対象者)
・賃金表の作成
・等級(スキルレベル)の設定
・評価基準の明確化
・派遣先業務との整合性の確認
特に重要なのは、派遣先の仕事内容と協定の職種が正しく紐づいているかです。
ここがずれると、
「実際の仕事より低い等級に設定されてしまっていた」
という問題につながります。
社労士として企業を支援する際には、派遣先の業務内容を丁寧にヒアリングし、協定上の職種・レベルと矛盾がないかをチェックする作業が欠かせません。
6.待遇差を説明できる組織が強い|説明義務と資料整備の実務
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待遇差について質問を受けた場合、企業はその理由を説明しなければなりません。
これは「説明義務」と呼ばれ、明確な対応が求められます。
説明に必要な資料には、
・職務分析シート
・評価基準
・賃金表
・労使協定書
・派遣先からの情報
などが含まれます。
実務では、これらがバラバラに保管され、担当者も内容を理解していないというケースが少なくありません。
説明が曖昧になると、
「正社員より扱いが悪いのでは?」
「なぜ自分はこの給与なのか?」
といった誤解を生みます。
実際、説明資料を整理しただけでクレームがなくなったケースは多く、整備の効果は非常に大きいといえます。
7.よくある誤解と実務の落とし穴
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派遣先均等・均衡待遇には、派遣会社が誤解しやすいポイントがいくつかあります。
●誤解1:正社員と「完全に同じ待遇」にしないといけない
→違いが合理的に説明できるなら問題ありません。
●誤解2:派遣先にすべて任せればよい
→待遇決定の責任は派遣元。情報提供は必要だが判断は派遣元が行う必要があります。
●誤解3:制度を形だけ作ればOK
→制度は“運用”が重要。業務内容変更時の見直しも欠かせません。
●誤解4:待遇差は説明しなければいけないが、資料はなくても大丈夫
→資料がなければ説明に一貫性がなくなり、紛争の火種になります。
特に「説明ができない」という状態は大きなリスクです。
派遣元と派遣先が適切に役割分担し、資料や情報を整理しておくことが不可欠です。
8.派遣先と派遣元の連携不足が生む典型トラブルと予防策
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派遣の現場では、以下のようなトラブルが頻繁に発生します。
・仕事内容の変更を派遣元が知らされない
・評価制度や手当の取り扱いを派遣先が誤解している
・派遣先の正社員待遇情報が提出されない
・業務が“実質的に正社員並み”なのに待遇が追いついていない
これらは、すべて「情報の断絶」が原因です。
予防策としては、
・定期的な現場ヒアリング
・業務内容変更時の通知ルールの徹底
・派遣先説明書の更新
・三者(派遣元・派遣先・社労士)の連携ミーティング
などが有効です。
社労士として支援していると、こうした“情報の見える化”によりトラブルが激減し、担当者の負担も大きく軽くなるケースが本当に多いです。
9.均等・均衡待遇がもたらす派遣会社のメリット
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均等・均衡待遇を正しく運用できると、派遣会社には大きなメリットがあります。
・派遣労働者の納得感が高まり離職率が下がる
・応募者の質が向上し採用が安定する
・派遣先からの信頼が高まりリピートが増える
・行政指導リスクが低減し安定経営につながる
待遇制度が整っている派遣会社は、現場の評価も高く、安定した事業運営がしやすいという傾向があります。
10.まとめ|派遣会社が今すぐ取り組むべき実務対応
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均等・均衡待遇は、派遣労働者の処遇を適正化し、企業のコンプライアンスを強化するために欠かせない仕組みです。
「制度を知っている」だけでは不十分で、
・情報の整理
・説明できる仕組み
・派遣先との連携
を整備して初めて、安定した運用が可能になります。
もし、
「制度はあるが、実際に説明できる状態になっていない」
「派遣先との情報連携が不十分で不安がある」
と感じる点があれば、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
社労士として、多くの派遣会社を支援してきた経験から言えることは、
“均等・均衡待遇の整備は、リスク回避だけでなく経営の安定につながる投資”
だということです。
ぜひ自社の制度を見直すきっかけにしてみてください。
初回のご相談は無料です。お気軽にご連絡いただければ幸いです。
【参考リンク】
厚生労働省「派遣労働者の同一労働同一賃金について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
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講演実績
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執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)


