業務委託でも労働者性が認められる?派遣会社が押さえるべき最新判例 2025.09.26
#### 1. 判例の概要:河合塾講師の雇い止め訴訟とは
2024年9月、最高裁判所が大手予備校「河合塾」と講師との間で争われた雇い止め訴訟に関して、同社の上告を受理せず、東京高裁判決を確定させました。
この判決で注目すべきは、**「業務委託契約であっても労働者性が認められ、不当労働行為に当たる」と判断されたこと**です。
河合塾側は「講師は業務委託契約であり、労働者ではない」と主張しましたが、裁判所は実態に基づき労働者性を認め、さらに労働組合活動を理由とした雇い止めは不当労働行為にあたると判断しました。
この事例は、派遣会社や人材ビジネスに深い示唆を与えるものです。なぜなら「契約形態で安心してはいけない」という教訓を明確に示したからです。
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#### 2. 労働者性を判断する基準とは
日本の労働法制において「労働者性」の判断は契約書に記載された名称だけでなく、**実際の働き方の実態**に基づきます。
例えば次のような要素が重視されます:
- 指揮命令関係が存在するか
- 労務の提供が個人の裁量でなく、会社の都合に依存しているか
- 就労時間や場所が拘束されているか
- 報酬が成果ではなく労務の提供に対して支払われているか
今回の判例では、契約書に「業務委託」と記載されていても、実態が労働者に近いと判断されました。
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#### 3. 不当労働行為とは何か
労働組合法では、労働者が労働組合活動を行ったことを理由に不利益を受けることを「不当労働行為」と定めています。
典型的な例としては:
- 労組加入や活動を理由とする解雇・雇い止め
- 労組活動への妨害
- 労組との交渉拒否
今回の事案では、講師が同僚に厚労省のリーフレットを配布したことが「組合活動」と位置付けられ、それを理由に雇い止めした行為が不当労働行為に当たると認定されました。
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#### 4. 派遣会社にとっての実務的リスク
派遣会社は多数の派遣スタッフと契約を結びますが、その中には**派遣契約・業務委託契約・紹介予定派遣など多様な形態**が存在します。
今回の判決は以下のリスクを示しています:
1. 契約書に「業務委託」と記載しても、実態が雇用に近ければ「労働者」と判断される
2. 契約更新や終了のプロセスが不透明だと、不当解雇や不当労働行為と認定される可能性がある
3. 派遣スタッフや委託スタッフが労組を結成し、団体交渉を求める事例が増加する恐れがある
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#### 5. 「形式」と「実態」のギャップに注意
企業側はしばしば「業務委託だから大丈夫」と思いがちですが、裁判所は常に「実態」を重視します。
例えば:
- 派遣先から直接的な指揮命令を受けている
- 勤務時間やシフトを細かく指定される
- 業務の裁量がなく、単純な労務提供が中心
このようなケースでは、契約名称が「委託」であっても労働者性が認められやすくなります。
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#### 6. 判例が示す今後の傾向
今回の最高裁の判断は、今後の労務管理や契約スキームに大きな影響を与える可能性があります。
特に:
- フリーランスや委託契約者の「労働者性」が認められる範囲が広がる
- 人材ビジネス業界における契約の見直しが求められる
- 派遣会社は「契約更新・終了」のプロセスをより慎重に進めざるを得なくなる
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#### 7. 派遣会社が取るべき具体的対策
1. **契約スキームの点検**
契約書の文言だけでなく、実際の就労実態を確認し、労働者性が疑われる契約を放置しない。
2. **更新・終了のルール化**
契約終了の際には、合理的な理由と公平な手続きが必要。口頭のやり取りだけではリスクが高い。
3. **労組対応の準備**
派遣スタッフや委託スタッフが労組活動を行う可能性を前提に、組織として対応ルールを整備する。
4. **教育と啓発**
営業担当や現場管理者が「契約形態=安全」と誤解しないように研修を行う。
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#### 8. 派遣先企業との連携強化
派遣会社だけでなく、派遣先企業も「実態」に影響を与えます。
派遣先が直接指示を行ったり、就労環境を拘束したりすれば、労働者性の判断に直結します。
したがって、派遣契約だけでなく、**派遣先との運用ルールを文書化し、徹底すること**が不可欠です。
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#### 9. 信頼関係を守るために
派遣スタッフや委託スタッフにとって、契約終了や更新の判断は生活に直結します。
不透明な対応や一方的な判断は、信頼関係を大きく損ない、労働争議や訴訟につながりかねません。
逆に、**誠実で透明性のある運用**を徹底すれば、スタッフとの信頼が強まり、長期的に安定したビジネスにつながります。
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#### 10. まとめ:判例から学ぶ派遣会社の行動指針
今回の河合塾判例は、派遣会社にとって「契約名称よりも実態が重視される」という厳しい現実を突きつけました。
👉 ポイントは3つ:
1. 契約書の文言だけでは労務リスクは避けられない
2. 契約終了・更新には合理性と透明性が不可欠
3. 労組活動を理由とする不利益取り扱いは即「不当労働行為」となる
派遣会社に求められるのは、契約スキームの再点検と、現場運用の透明化です。
それが結果的に、クライアント企業の信頼、働く人の安心、そして自社の安定経営につながります。
今回の判例を、単なるニュースとして流すのではなく、**「自社のリスク管理を見直すきっかけ」**としてぜひ活用していただきたいと思います。
お困りの際は、当ホームページのお問合せ・相談フォームから、お気軽にお声がけください。
初回のご相談は無料です。
※参照記事)
https://news.yahoo.co.jp/articles/854562e526c9f39e0900bfcf3a91a2119a240957
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セミナーについて
当事務所セミナー会場(27Fスカイラウンジ)で、当事務所が独自にテーマを設定し、お申し込み頂いた、複数の会社様にご参加頂くものです。
セミナー開催実績例
- 介護事業者様向け「改正介護保険法セミナー」
- 介護事業者様向け「介護労働環境向上奨励金セミナー」 3回
- 新規採用をお考えの事業者様向け
「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」 - 飲食店様向け「元ハローワーク職員が教える!求人助成金セミナー」
講演について
当事務所代表が会社様や、ご同業者の集まりに訪問し、ご依頼されたテーマ(一般的な課題)について原稿を作成し、講演するものです。
講演実績
日本経営開発協会様 御紹介
市川港開発協議会様 主催 研修
「マイナンバー通知開始!
今知りたいマイナンバー制度の傾向と対策」
【参加者様からのお声】
- 非常に分かりやすく、90分飽きさせることのない素晴らしいものだった。
- 非常に役に立ち、興味が持てる内容だった。
- 普段は講義に集中するのは難儀なのだが、話のスピード、声のトーン、間、どれを取っても感心するばかりだった。
- マイナンバーが今後いろいろな問題を引き起こす可能性があることがよくわかり、大変勉強になった。早期に確実な運用体制を社内に確立させなければと思った。
一般社団法人 港湾労働安定協会 様 主催
雇用管理者研修「職場のメンタルヘルスに関して(会社を守る職場のメンタルヘルス対策)」
【参加者様からのお声】
- メンタルヘルス対策は今後も重要になってくると思うので、このような研修会を増やして貰いたい。
- 社会保険労務士による内容を次回もお願いしたい。
- メンタルヘルス関係で初めて面白い(役に立つ)情報が聞けたと思います。
- 大変に良い研修ですので、これからも続けて貰えるとありがたいです。
- 中間管理職として守るべきというか、部下に対してどのような人事労務管理をすればよいのか、中小企業向けに別途講習会をやってほしいと思った。
- 株式会社LEC 様 主催
「介護雇用管理研修」業務委託登録講師 - 株式会社フィールドプランニング 様 主催
「派遣元・派遣先責任者講習」業務委託主任講師 - 神奈川韓国商工会議所様 主催
経営者セミナー「お役立ち助成金講座
(雇用の確保と5年ルールへの対応策)」 - 日本経営開発協会様 御紹介
株式会社根布工業様 主催
安全大会「入ってないと、どうなっちゃうの?社会保険のこわ~いお話」
泉文美 講師紹介ページ
研修について
当事務所代表が、会社様のご依頼に基づき、会社様の具体的な人事労務に関わる内容(個別事案)について、オーダーメイドのプログラムを作成し、社員の皆様に研修するものです。
研修のご依頼例
- 就業規則を変更したので、わかりやすい説明会を開いてほしい
- 給与規定を見直したので、従業員に説明をしてほしい
- 従業員向けの、接客マナー、敬語などのレッスン会をしてほしい
執筆のご依頼
雑誌・メルマガ、HPコラムなど、ご希望に沿ったテーマで記事を執筆いたします。
掲載履歴
HP記事執筆
ハッケン!リクナビ派遣に「働き改革!派遣社員が選べるふたつの雇用とは」と題する記事を執筆しました。
「近代中小企業」2月号
「近代中小企業」2月号に記事を執筆しました。
「元ハローワーク職員が教える!ハローワーク求人&助成金活用法」
「SR」 9月号
ハローワークを始め、社会保険事務所(現:年金事務所)、労働基準監督署でも勤務経験を持ち、「お役所の裏事情に詳しい社労士」として定評のある我がみなとみらい人事コンサルティング代表。
ハローワークでの勤務経験を買われ、日本法令様出版の「SR 9月号」に記事を執筆しました。
(第27号 2012年8月6日発売)